クロースアップ・マジック

クロースアップマジックとは

クロースアップマジックは、マジシャンが観客の目の前、至近距離で演じるマジックの形態です。テーブルマジックとも呼ばれ、少人数の観客に対して、手元で繰り広げられる繊細なテクニックと、驚きのイリュージョンが特徴です。1930年代から使われるようになったこの言葉は、舞台上で行われるステージマジックとは対照的に、より親密でパーソナルな体験を提供します。また、路上やバーカウンターなどで行われるストリートマジックやバーマジックもクロースアップマジックの一種です。

マジックがエンターテイメントとして発展する以前は、路上やパーティーが主な舞台であり、クロースアップマジックはマジックの歴史において重要な役割を果たしてきました。日本でも江戸時代から解説書が出版されるなど、古くから親しまれてきましたが、プロとして専門に活動するマジシャンは比較的少ないジャンルでした。近年では、前田知洋、ふじいあきらなど、この分野で活躍するマジシャンも現れています。

クロースアップマジックの必須アイテム「クロースアップマット」

テーブル上でクロースアップマジックを行う際によく使用されるのが、クロースアップマットです。このマットは、コインやカードなどを扱いやすくするだけでなく、コインを落とした際の音を抑える効果もあります。黒色のマットが一般的ですが、緑や青などさまざまな色や、長方形だけでなく半円形など、多様な形状が存在します。クロースアップマットなしでは演じられないマジックも存在し、1960年代初頭から広く使用されるようになりました。

代表的なクロースアップマジック

クロースアップマジックには、カード、コイン、ロープなどを使ったマジック以外にも、以下のような様々な種類があります。

スポンジボール

スポンジ製のボールを使用するマジックです。ボールの出現、消失、移動、分裂など、さまざまな現象が起こります。観客の手の中でボールが増えたり、形が変わることもあります。赤い色のボールがよく使われますが、ウサギやクマ、ピカチュウなどのキャラクターを模したスポンジも販売されています。

スポンジボールは、ジョセフ・L・ライバーガーによって考案されました。

カップとボール

カップと小さなボールを使ったマジックで、通常はカップとボールを3つずつ使います。ウォンド（魔法の杖）を使っておまじないをかけることもあります。ボールがカップの間を移動したり、カップの底を通り抜けたり、カップの中からレモンなどの大きなものが出現したりします。また、カップが口のないソリッドカップに変化するクライマックスもあります。

ジェイソン・ラティマーは、透明なグラスでカップとボールを演じ、2003年のFISMオランダ大会クロースアップ部門でグランプリを受賞しました。カップとボールの起源は古く、紀元前2500年頃の古代エジプトの王墓の壁画に、同様のマジックを演じている様子が描かれています。東洋では「お椀と玉」として知られています。

チョップカップ

カップとボールを1つずつ使って行うマジックで、ブルーノ・コパンが得意としています。現象はカップとボールと似ています。

ベンソンボウル

スポンジボールと鉢を使って行うマジックで、ドン・アラン、ジョニー・トンプソン、アレキサンダー・ドコバなどが手順を発表しています。1948年にロイ・ベンソンが行ったレクチャーが起源とされています。

パドルマジック

パドルと呼ばれる板状の道具を使うマジックです。パドルの側面に描かれた図形や埋め込まれた宝石などが変化します。

指輪のマジック

指輪を使ったマジックは、観客に身近なアイテムを使うことで、より親近感と驚きを与えます。

リング・オン・ザ・ウォンド: 指にはめた指輪が、両端を持たれたウォンドを通り抜けます。
リングフライト: 観客から借りた指輪が消えて、マジシャンのキーケースの中から出現します。アル・コーランが考案しました。
フリンガー: 指にはめた指輪が一瞬で小指や薬指に移動します。
リングとロープ: 指輪がロープを通り抜けたり、ロープから外れたりします。
ヒンズーリング: 複数の指輪が連結します。

お金のマジック

お金を使ったマジックも、日常的なアイテムを使うため、観客の興味を引きつけます。

ビル・イン・レモン: 観客から借りた紙幣がレモンの中から出現します。
ビル・チェンジ: 紙幣の種類を変化させます。例えば、千円札を1万円札にしたり、白紙を紙幣に変えたりします。マイク・クズロウスキーの「Hundred Dollar Bill Switch」やリチャード・サンダースの「Slow Burn」などが有名です。
その他、丸めた紙幣が宙に浮いたり、破った紙幣が元通りになったりするマジックもあります。

安全ピンのマジック

リンキング・ピン: 2つの安全ピンを、開くことなく分離させたり連結させたりします。
その他、安全ピンがハンカチを通り抜けたり、ハンカチ上の別の場所に移動したりするマジックもあります。

輪ゴムのマジック

ジャンピング・ラバー・バンド: 人差し指と中指にかかっていた輪ゴムが一瞬で薬指と小指に移動します。スタンリー・コリンズが解説したのが、輪ゴムマジックに関する最初の文献です。
クレイジーマンズ・ハンドカフス: 両手の間で交差させた2つの輪ゴムが外れます。
スターゲイザー: 2本の輪ゴムを使い、星型を作り出すマジックです。
ピナクル: 輪ゴムと指輪が繋がったり外れたりします。
その他、ちぎった輪ゴムを元に戻したり、輪ゴムが指や腕を貫通したりするマジックもあります。

マッチ棒のマジック

マッチ棒を使ったマジックもバラエティに富んでいます。

マッチ・アップ・ノーズ: マッチ棒を鼻に吸い込みます。
マッチ・モンテ: 色付きのマッチを使った当て物です。
その他、マッチ棒が貫通したり、元に戻ったり、勝手に飛び上がったり、火がついたマッチが消えたりするマジックがあります。マッチ箱を使ったマジックも存在します。

ダイスマジック

サイコロを使ったマジックです。ダイススタッキングと組み合わせて演じられることもあります。

ダイス・フロムワン: サイコロの目を次々と変化させていきます。

キューブマジック

ルービックキューブを使ったマジックです。ルービックキューブが一瞬で揃ったり、混ぜたキューブとテーブルに置いてあったキューブが一致したりします。

カラーチェンジングナイフ

ポケットナイフの柄の色が次々と変化するマジックです。1935年にラルフ・ハルが商品化し、1975年には専門書が出版されました。

エッグバッグ

布製の袋に入れた卵が消えたり、現れたりするマジックです。クライマックスには、袋の中から液体の入ったグラスが出現することもあります。

メタルベンディング

金属を曲げるマジックの総称です。スプーン曲げが有名ですが、他にも釘や硬貨、鍵などを曲げるマジックもあります。メンタルマジックとして演じられることもあります。

ポディマジック

道具を使わずに体だけで行うマジックです。特定の指が消失したり、指が伸びたり、手首が360度回転したりするマジックがあります。

参考資料

荒木一郎　『テクニカルなクロースアップマジック講座』　東京堂出版、2007年
二川滋夫　『テーブルマジック (奇術入門シリーズ)』　東京堂出版、1993年
松田道弘　『クロースアップ・マジック (fukkan.com)』　ブッキング、2005年
松田道弘　『夢のクロースアップ・マジック劇場』　東京堂出版、2005年
松田道弘　『クラシック・マジック事典』　東京堂出版、2002年
* 松田道弘　『クラシック・マジック事典〈2〉タネも仕掛もあるマジック』　東京堂出版、2003年

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