コリン・ウィルソン

コリン・ウィルソン：多様な知の探求者

コリン・ウィルソン（1931年6月26日 - 2013年12月5日）は、20世紀を代表するイギリスの小説家、評論家です。労働者階級の家庭に生まれ、16歳で学業を断念せざるを得なかった彼は、様々な職を転々としつつも、並外れた知的好奇心と旺盛な執筆活動を続けました。

実存主義からの出発と多様な探求

1956年、24歳の時に発表した評論『アウトサイダー』は、サルトル、カミュ、ドストエフスキーといった既存の思想家を「実存主義的な危機」という観点から独自の視点で分析したもので、大きな反響を呼び、ウィルソンを作家として確立させました。この作品は、彼が並行して執筆していた小説『暗黒のまつり』の執筆を中断して、一気に書き上げたものだったと言われています。当時、彼は日中は大英博物館で執筆し、夜は野宿するという生活を送っていたそうです。

『アウトサイダー』以降、ウィルソンは博覧強記を活かし、殺人、オカルト、心理学、SF、社会問題など、実に幅広いテーマを独自の思想体系から論じていきます。彼は自身の思想を「新実存主義」と呼んでおり、アブラハム・マズローの心理学からの影響も色濃く反映されています。特に、サルトルの悲観主義的な側面を批判し、独自の楽観主義を展開した点は特筆に値します。また、ホワイトヘッドやニーチェの哲学からの影響も見られますが、ウィルソンの著作は、専門家だけでなく一般読者にも理解しやすい平易な表現で書かれていることが特徴です。

殺人とオカルトへの鋭い洞察

ウィルソンは殺人事件にも深い関心を抱いており、『殺人百科』では切り裂きジャックやペーター・キュルテンといった古典的な事件を分析しています。彼の殺人に関する哲学は、日本においても小田晋や福島章といった心理学・評論家に影響を与えました。さらに、佐川一政との対談なども行っています。

また、オカルトについても、『オカルト』という著作を発表し、「オカルト」ブームの発端を担った一人となりました。ウィルソン自身は、オカルト現象に対しては懐疑的な立場を取っていましたが、ラスプーチンやグルジェフといった人物を、オカルティズムを超えた思想家として高く評価しています。ウィリアム・ジェームズの超常現象に対する考察を「ウィリアム・ジェームズの法則」と名付け、独自の視点で論じています。

小説家としての才能

小説家としても優れた才能を発揮したウィルソンは、『暗黒のまつり』に始まるジェラード・ソーム三部作や、『ガラスの檻』、『精神寄生体』、『宇宙ヴァンパイアー』など、数多くの作品を発表しました。特にSF作品にはラヴクラフトのクトゥルフ神話の強い影響が見られますが、これはラヴクラフト作品を批判的に論じたウィルソンに対して、オーガスト・ダーレスが幻想的な小説を執筆することを勧めたことがきっかけだったと言われています。『精神寄生体』の前書きでは、ウィルソンがラヴクラフトに対する評価を一部改めていることが伺えます。また、J・R・R・トールキン『指輪物語』を高く評価し、1980年代後半からは壮大なファンタジー作品『スパイダー・ワールド』シリーズも発表しました。

文芸批評における独自の視点

ウィルソンは、人間の想像力の可能性を高く評価し、SFやファンタジーの意義を強調しています。ジャン＝ジャック・ルソーやサミュエル・リチャードソンといった作家の作品を、想像力の飛躍的な拡大の起点として捉えています。ラヴクラフトやデイヴィッド・リンゼイなどの作家を再評価する一方で、シェイクスピアを批判的に評価するなど、独自の視点から文芸批評を展開しています。バーナード・ショーについては、ロマン主義者でありながら高い客観性を持つ作家として高く評価しています。代表作の一つである『夢見る力』では、SF、世界文学、そして自身の哲学を織り交ぜた熱意あふれる論考が展開されています。

晩年と影響

2012年に脳卒中を発症し、会話能力を失ったウィルソンは、翌2013年に亡くなりました。しかし、彼の多岐にわたる著作は、現在も多くの読者や研究者に影響を与え続けています。彼の著作は、様々な言語に翻訳され、世界中で読まれています。彼の生涯と業績は、知的探求の重要性を改めて示唆するものです。

もう一度検索