シャミール

シャミール：北カフカースの抵抗運動を率いた不屈の指導者

シャミール（1797年 - 1871年）は、19世紀にロシア帝国による北カフカス支配に抵抗したイスラム教徒の指導者であり、アヴァール人でした。彼は、その卓越した指導力と不屈の精神で、長年にわたりロシア帝国軍と戦い続け、現在でも北カフカースのムスリムの間で尊敬を集めています。

生い立ちと初期の活動

1797年、現在のダゲスタン共和国のギムラ村で生まれたシャミールは、鍛冶屋の息子として育ちました。彼は、クルアーンとシャリーアを学び、スーフィズムの影響を強く受けました。1828年にはメッカ巡礼を果たし、そこで出会ったアブドゥル・カディルからゲリラ戦術を学びました。

イマームとしての台頭

1830年、同志のマホメドが初代イマームとなり、1832年に戦死すると、同じく同志であるガムザト＝ベクが2代目イマームとなりました。しかし、ガムザト＝ベクも1834年に暗殺されたため、シャミールが第3代イマームに選出されました。彼は、イマーム国の基盤を整備し、国家を改革しました。国土をナイーブが管轄する行政・軍事単位に分割し、ウラマー会議を最高機関としました。また、正規軍と後備軍からなる階級制度を確立し、血の復讐の慣習を廃止してシャリーアに基づく司法制度を整備しました。さらに、イマーム直属の親衛隊であり秘密警察の役割も担うムルタゼク軍団を組織しました。

ロシア帝国との抵抗戦争

18世紀以降、ロシア帝国は南下政策を進め、北カフカスに到達しました。これに対し、現地のムスリムは抵抗戦争を始めました。1834年、シャミールは全山岳ダゲスタンを支配下に置き、1840年にはチェチェンのイマームにもなりました。当初はロシアと中立的な立場を取りましたが、1843年末に本格的な抵抗を開始しました。

イマーム国の首都アフリゴ防衛戦では、ロシア軍との激しい戦いが繰り広げられました。ロシア軍司令官は、シャミールの長男ジャマルディンを人質に取る代わりに、ムスリム側の生命の保証を提示しましたが、シャミールはこれを拒否。アフリゴは陥落したものの、シャミールはチェチェンへと撤退しました。長男ジャマルディンはロシアに連れ去られ、ロシア軍に入隊しました。

親子の再会と悲劇

1854年、シャミールは、グルジア遠征の際に捕らえたチャヴチャヴァゼ大公の家族を人質とし、長男ジャマルディンとの交換を要求しました。ロシア皇帝ニコライ1世の計らいで、ジャマルディンはシャミールの元に戻ることになりました。1855年3月、15年ぶりに再会を果たした父子は喜びを分かち合いました。しかし、ロシアで教育を受けたジャマルディンは、故郷の習慣に馴染めず、父との間に溝ができてしまいます。

投降と晩年

1855年にアレクサンドル2世が即位し、カフカス副王にバリャチンスキー大公が任命されると、ロシア帝国は大規模な軍事作戦と買収工作によってシャミールを追い詰めました。1859年、シャミールはグニブ山に撤退し、最後の抵抗を試みますが、8月25日に投降を余儀なくされました。投降後、シャミールは「カフカーズのナポレオン」としてロシア各地で歓迎されました。彼は皇帝アレクサンドル2世に謁見し、金のサーベルを贈呈されました。

1859年10月、シャミールは家族と共にカルーガに転居しました。晩年、メッカ巡礼を希望するようになり、1869年、息子達をロシアに残すという条件で許可を得ました。シャミールはイスタンブールを経由してメッカへ旅し、1871年にマディーナで亡くなりました。彼の遺体は、イスラームの偉人たちと共にマディーナに埋葬されました。

家族

シャミールは生涯で4人の妻を娶り、多くの子をもうけました。長男ジャマルディンはロシア軍に入隊し、次男ガジ＝マホメドはトルコ軍の将軍にまで昇進しました。三男マホメド＝シャピはロシア帝国軍に入隊しましたが、後に軍務を離れました。五男のマホメド＝カミールもトルコ軍に勤務し、元帥に昇進しています。

シャミールの生涯は、北カフカースにおける抵抗運動の象徴として、今もなお多くの人々に語り継がれています。

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