ジョワユーズ

ジョワユーズ（フランス語: Joyeuse）は、中世フランスの英雄譚、特にシャルルマーニュ大帝（カール大帝）の物語に深く結びついた伝説的な剣です。その名前はフランス語で「陽気」あるいは「歓喜に満ちた」を意味し、文献によってはジョワイユーズ、ジュワユーズ、ジュワイユーズといったカナ表記も見られます。

伝説上の特徴

この剣は単なる武器ではなく、神秘的な力や由緒を持つと伝えられています。いくつかの伝承によれば、ジョワユーズの柄頭（ポメル）には、キリストが磔にされた際にその脇腹を刺したとされる聖槍の一部が埋め込まれていたとされています。また、他の伝説では、シャルルマーニュの十二勇士の一人であるローランの愛剣デュランダルや、デンマークのオジェ（オジェ・ル・ダノワ）が持っていたとされる名剣カーテナと同様の、特別な鍛造材料から作られた可能性が示唆されています。

11世紀に成立した古フランス語の叙事詩『ローランの歌』では、ジョワユーズは比類なき剣として描写されています。詩の中では、シャルルマーニュ大帝が身に纏う荘厳な装備の一部として、ジョワユーズが以下のように称えられています。

[Charlemagne] was wearing his fine white coat of mail and his helmet with gold-studded stones; by his side hung Joyeuse, and never was there a sword to match it; its color changed thirty times a day.

> 「〔シャルルマーニュは〕きめ細かな白の鎖帷子と、金の鋲が打たれた兜を身に纏い、腰にはジョワユーズを帯びていた。それに並ぶ剣は無く、また日に30回、その色彩を変じるという。」

このような記述は、ジョワユーズが単なる実用的な剣ではなく、神秘的で魔法的な性質を持つ存在として捉えられていたことを物語っています。

後世の作家たちもジョワユーズに言及しています。およそ700年後、トマス・ブルフィンチはその著書『シャルルマーニュ伝説』の中で、シャルルマーニュがこの剣を、仲間のオジェ・ル・ダノワに騎士の爵位を授ける儀式（knighting）に用いただけでなく、敵対するサラセン人の指揮官コルシブルを打ち首にするためにも使用したと述べています。

フランス王権の象徴として

ジョワユーズは伝説上の存在に留まらず、歴史的なフランスにおいても重要な象徴と見なされました。国王の王権を示す宝剣として、多くの絵画にその姿が描かれています。歴代のフランス国王の肖像画にも描かれることがあり、その権威を象徴するアイテムでした。特に、19世紀初頭に行われたナポレオン1世の戴冠式では、儀礼剣としてジョワユーズとされる剣が用いられました。

現在の所在に関する諸説

伝説に彩られ、歴史的な儀式にも用いられたジョワユーズですが、その正確な行方については現在もはっきりしていません。いくつかの説が存在します。

埋葬説: シャルルマーニュ大帝の亡骸と共にアーヘンの宮廷教会（現在のアーヘン大聖堂）に埋葬されたという説。
サン＝ドニ大聖堂説: フランス王家の墓所としても知られるサン＝ドニ大聖堂に保管されているという説。
ルーヴル美術館説: ナポレオンの戴冠式で用いられた剣が、その後ルーヴル美術館に移され、現在も展示されているという説が有力視されています。しかし、このルーヴル美術館に収蔵されている剣が、シャルルマーニュがかつて帯びたオリジナルのジョワユーズそのものであるのかどうかについて、美術館自身は明確な言及を避けています。また、ナポレオンが戴冠式で用いた剣自体が、フランス革命期の混乱で失われたオリジナルの代わりに新たに作られたものだとする説もあり、この剣の真偽についても議論が続いています。
ウィーン帝国宝物殿説: オーストリアのウィーンにあるホーフブルク宮殿内の帝国宝物殿（Kaiserliche Schatzkammer）に保管されているという説も存在します。

ジョワユーズは、日本の三種の神器の一つである草薙の剣が持つような、儀礼的、政治的な意味合いを強く持っています。かつてフランス王家が存在した時代においては、たとえ剣の物理的な同一性が伝説上のオリジナルと異なっていたとしても、その時々のフランス国王が所有し、儀式に用いる剣こそが、象徴的な意味での「本物のジョワユーズ」と見なされたと考えられます。しかし、現在フランスに王家は存在しないため、そうした儀礼的・政治的な意味での「本物」もまた、存在しないと言えるでしょう。その正確な行方は、歴史と伝説の霧の中に包まれたままです。
まれています。

（参考文献や外部リンクについては、この文章の範囲外とします。）

もう一度検索