オジェ・ル・ダノワ

デーン人オジエ：伝説の英雄

デーン人オジエ（Ogier le Danois）は、中世フランスのシャルルマーニュ伝説に登場するパラディンの一人で、伝説的な英雄として知られています。彼は、その武勇と数々の冒険譚で、多くの人々に語り継がれてきました。特にデンマークでは「ホルガー・ダンスク」の名で、国民的な英雄として広く親しまれています。

オジエの出自と異なる見解

オジエがフランス系かデンマーク系かについては、いくつかの見解が存在します。フランスでは、オジェの添え名である「ル・ダノワ」や「ダーヌマルシュ」が、デンマークではなくアルデンヌ地方の所領に由来するという説が提唱されました。一方、デンマークでは、オジエの父親ゴーフロワを、歴史上のデンマーク王グードリグと同一視し、オジエ自身をその王子オルフであると断定しています。

コルタン：折れた剣の伝説

オジェの象徴とも言えるのが、切っ先が欠けた剣「コルタン」です。この剣は、初期の記録にも「短い剣のオジェーロ」として登場します。武勲詩では、オジェはサラセン人からコルタンと名馬ブロワフォールを手に入れたとされます。後世の脚色では、アーサー王伝説のトリスタンが持つ刃こぼれの剣がオジェに受け継がれ、コルタンと名付けられたとされています。また、英国の戴冠剣の一つであるカーテナも、同じく「短い」という意味を持ち、コルタンとの関連性が指摘されています。

オジエを巡る物語：武勲詩「オジェの騎士道」

オジェを主人公とした武勲詩『オジェの騎士道』は、「ドーン・ド・マイヤンスの武勲」の詩群に数えられ、シャルル王に反抗する氏族の物語を描いています。この作品は、全12枝篇からなり、約13,000行にも及ぶ長編です。

第1枝篇：オジェの出自と若き日の活躍

第1枝篇では、オジェがデンマルク公ゴーフロワの息子として生まれ、人質としてシャルル王に預けられる場面から始まります。彼は、監禁先の城主の娘と恋仲になり、息子ボードワンをもうけます。父ゴーフロワの不遜な態度がシャルル王の怒りを買い、オジェは処刑されそうになりますが、異教徒の侵略に対する救援要請によってイタリアへ遠征することになります。この戦いで、オジェは敵前逃亡した旗手から甲冑と軍旗を奪い、大いに活躍。その武勇が認められ、王から佩刀の叙勲を受けます。

第2枝篇：息子の死とオジェの出奔

第2枝篇では、オジェの息子ボードワネットがシャルロ王子に殺害され、激怒したオジェは王子を追いまわします。王は金銭で解決しようとしますが、オジェは王子の命を要求。最終的に、オジェは追放され、パヴィア国のデジエに身を寄せることになります。

オジェの反乱、投獄、そして復帰

追放後、オジェはフランス王軍を翻弄し、最終的に捕えられます。しかし、アフリカの王ブルイエ率いる軍の侵攻によってフランスが危機に陥ると、オジェの復帰が求められます。オジェは、息子を殺した王子を処刑しようとしますが、天使の降臨によってそれを制止されます。

その後のオジェ：妖精との邂逅

物語の後半では、オジェは妖精モルガンにアヴァロンに連れていかれ、事実上の夫婦として生活します。これは、ケルト物語的な要素が追加されたもので、本来の武勲詩にはない展開です。また、モルガンとの間にムールヴァンという息子をもうけ、このムールヴァンもまた後のロマンスの主人公となります。

オジェ伝説の変遷

オジェの物語は、中世後期以降も様々な形で改作や翻案が行われました。13世紀には、古ノルド語の散文に翻案され、『カルル大王のサガ』に収録。また、14世紀には、アーサー王伝説と絡めて、妖精モルガンによってアヴァロンに誘われるという展開が追加されました。さらに、15世紀には印刷技術の発展により、散文訳『オジェ物語』が出版され、広く読まれるようになりました。

デンマークでのオジェ伝説：ホルガー・ダンスク

デンマークでは、「ホルガー・ダンスク」として、オジェ伝説が広く伝わっています。16世紀には、クリスチャン・ピーダセンがデンマーク訳本を出版し、オジェ伝説が国民的なものとなりました。デンマークには、国の危機に際して眠りから覚めるとされる英雄伝説があり、ホルガー・ダンスクもその一つとされています。

ホルガー・ダンスクの象徴：クロンボー城の像

ホルガー・ダンスクは、ヘルシンガー市のホテルに設置された銅像が有名ですが、クロンボー城の砲郭に設置された石膏像も有名です。この石膏像は、後にコンクリート像に置き換えられました。第二次世界大戦中には、デンマークのレジスタンス運動が「ホルガー・ダンスク」の名を掲げ、ナチス・ドイツ占領に対する抵抗運動を行いました。

オジェ伝説の影響

オジェ・ル・ダノワは、トランプのスペードのジャックの人物とされ、また、ポール・アンダースンの小説『魔界の紋章』の題材にもなっています。このように、オジェの伝説は、文学や大衆文化に多大な影響を与えています。

結論

デーン人オジエは、中世フランスの武勲詩に登場する伝説的な英雄であり、その武勇と冒険譚は、時代を超えて多くの人々に語り継がれています。フランスやデンマークだけでなく、ヨーロッパ各地で愛され、様々な形で物語が語り継がれる中で、オジェは今なお人々の心を魅了し続けています。

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