ジョン・オブ・ランカスター

ベッドフォード公ジョン：百年戦争を彩るイングランドの指導者

ベッドフォード公ジョン・オブ・ランカスター(1389年6月20日-1435年9月14日)は、イングランド王ヘンリー4世の三男として生まれ、百年戦争後期におけるイングランド軍の総司令官として、そしてフランス摂政として重要な役割を果たした人物です。兄であるヘンリー5世の後を継ぎ、幼少のヘンリー6世の摂政としてフランスにおけるイングランドの支配を維持しようと奮闘しました。

華麗なる出自と輝かしいキャリアの始まり

ジョンは、後のヘンリー4世となるランカスター家出身のヘンリー・ボリングブルックとメアリー・ド・ブーンの間に生まれました。兄にはヘンリー5世とトマス（クラレンス公）、弟にはハンフリー（グロスター公）がいました。王位簒奪によって即位した父の下で成長した彼は、1399年以降、ガーター勲章ナイトに叙せられ、1414年にはベッドフォード公爵に叙任されるなど、早くからその才能を認められていました。

若き頃から軍事経験を積み、1405年の父への反乱鎮圧にも参加しています。兄ヘンリー5世の治世下では、フランスにおけるイングランド軍の防衛を任され、1416年にはフランス艦隊を撃破、アルフルールの防衛に成功するなど、軍事面での手腕を発揮しました。

フランス摂政としての重責

1422年、ヘンリー5世の死後、ジョンは兄の遺言によりフランス摂政に就任しました。弟グロスター公がイングランド国内の行政を担う中、ジョンはフランスにおけるイングランドの支配と百年戦争の継続に全力を注ぎました。ブルゴーニュ公フィリップ3世（善良公）との同盟関係を強化するため、フィリップ3世の妹アンヌと結婚するなど、外交面でも活躍しました。

1424年のヴェルヌイユの戦いでフランス軍を破り、イングランド軍の優勢を確立しましたが、資金不足や同盟国の協力不足など、様々な困難にも直面することになります。フランスにおける孤軍奮闘の状態は、彼の抱える大きな課題でした。安定した収入源を確保するため、ノルマンディー三部会を定期的に開催したり、1431年にはカーン大学を設立するなど、長期的な支配体制の構築にも努めました。

エノー女伯の継承問題と同盟関係の亀裂

1425年には、弟グロスター公とエノー女伯ジャクリーヌがエノーの継承権を巡ってブルゴーニュ公と対立。この事態は、ジョンとブルゴーニュ公との同盟関係に亀裂を生じさせました。しかし、グロスター公がジャクリーヌを見捨てたことで、ジョンはブルゴーニュ公との関係を修復することに成功します。

1427年には、イングランド国内でのヘンリー6世の摂政を巡る争いに介入するため一時帰国。議会招集を通じて、グロスター公とウィンチェスター司教ヘンリー・ボーフォートの対立を解消しました。1428年には、エノー継承問題がブルゴーニュ公の勝利で決着しますが、対フランス戦争へのブルゴーニュ公の協力を得ることはできませんでした。

ジャンヌ・ダルクとの激突と悲劇の結末

オルレアン包囲作戦では、ジャンヌ・ダルク率いるフランス軍の活躍によって作戦は失敗に終わります。オルレアン解放、ランスでのシャルル7世戴冠と、ジャンヌ・ダルクはフランスの戦況を一変させました。パリ包囲戦を撃退するも、フランス軍の勢いは衰えず、コンピエーニュ包囲戦での敗北、そしてジャンヌ・ダルクの捕縛へと繋がります。

ジャンヌ・ダルクの宗教裁判と火刑執行は、ベッドフォード公の承認の下で行われました。この行為は、彼の名を歴史に刻むこととなったものの、同時に彼の評判を大きく損なうことにもなりました。ジャンヌ・ダルク処刑後も、ルーヴィエの陥落、パリでのヘンリー6世のフランス王戴冠など成果をあげますが、イングランドの劣勢は覆せず、晩年は失意のうちにルーアンで46歳で亡くなりました。彼の死後、アラスの和約締結、そしてパリ陥落など、イングランドにとっての敗北が決定的なものとなっていきました。

ベッドフォード公：優れた軍人にして政治家

ジャンヌ・ダルク処刑で悪名高いベッドフォード公ですが、優れた軍事力と政治力を備えた人物でした。フランスにおけるイングランド支配の維持に尽力し、軍事、外交、行政と幅広く手腕を発揮しました。しかし、時代と戦況の変化に対応しきれず、晩年は多くの困難に直面することになりました。彼の生涯は、百年戦争の激動期を生き抜いたイングランド王族の一人としてのドラマであり、歴史に大きな足跡を残した人物の一人として記憶されています。

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