スジグロカバマダラ

スジグロカバマダラ（筋黒樺斑）

スジグロカバマダラ（学名：Salatura genutia）は、昆虫綱チョウ目タテハチョウ科マダラチョウ亜科に分類される蝶の一種です。その鮮やかな色彩と特徴的な飛び方で知られています。

特徴

この蝶は、目を引く明るいオレンジ色を基調とした翅を持ちます。近縁種であるカバマダラと非常に似ていますが、スジグロカバマダラは、オレンジ色の地色の上に走る翅脈（しみゃく）が太くはっきりと黒い点で容易に見分けることができます。翅脈の黒さが、和名の「筋黒」の由来となっています。

性的二型も見られ、雄の後翅の裏側には、中央を走る翅脈上に性標（せっぴょう）と呼ばれる黒く丸い特殊な器官が存在します。この性標は、フェロモンを分泌して求愛行動に関与すると考えられています。

スジグロカバマダラの生態における重要な特徴の一つは、その体内に毒成分を蓄積していることです。この毒は、幼虫時代に食草から取り込まれたもので、成虫になっても体内に保持されます。この毒の存在は、鳥などの捕食者に対する有効な防御手段となります。毒を持つことを示すかのように、本種は非常にゆったりと、優雅に飛翔します。これは、派手な体色と相まって、捕食者に対して「自分は不味い、あるいは危険である」という警告信号を送る働きがあると考えられています。

食性としては、成虫は花の蜜を吸います。様々な花を訪れますが、特にタチアワユキセンダングサなどで吸蜜する姿が観察されることが多いです。

生息環境としては、樹木がまばらな疎林や、日当たりの良い開けた草原などを好みます。鬱蒼とした密林や、人の手が多く入った市街地ではあまり見られません。

生活史

スジグロカバマダラの幼虫は、特定の植物を食草とします。主に利用されるのは、キョウチクトウ科（かつてはガガイモ科に分類されていました）の植物であるリュウキュウガシワなどです。これらの食草には有毒成分が含まれており、幼虫はこれを食べることによって体内に毒を蓄積します。この毒が、幼虫期だけでなく、蛹を経て成虫になっても体内に保持されることで、一生を通じて捕食者からの防御を可能にしています。

卵は、食草の葉の裏や花に、通常1個ずつ丁寧に産み付けられます。

分布

日本国内においては、過去の記録では宮古島以南の南西諸島に分布していました。近年では、地球温暖化の影響や、台風の風に乗るなどして本来の生息域より北の地域へ迷い込む、『迷蝶（めいちょう）』として観察されることもあります。

特定の越冬形態は持たず、温暖な地域では一年を通して世代を繰り返し発生します（周年発生）。

国外では、インドからオーストラリアにかけての広範な地域に分布しており、その分布域は熱帯から亜熱帯にかけて広がっています。

このように、スジグロカバマダラはその美しい姿と、毒による巧みな防御戦略、そして海を越える可能性を秘めた移動性など、多くの興味深い特徴を持つ蝶です。

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