タペット

タペット：エンジンの心臓部を支える精密部品

自動車エンジンの心臓部ともいえる内部燃焼機関において、吸気と排気を制御するバルブの正確な動作は、エンジン性能を左右する重要な要素です。カムシャフトの回転運動をバルブの直線運動に変換する役割を担うのが、本記事で解説するタペットです。バルブリフターと呼ばれることもあります。

タペットの役割とメカニズム

タペットは、カムシャフトから伝わる回転運動を、バルブステム（バルブの軸）の直線運動へと変換する重要なインターフェースとして機能します。カムシャフトのカムが回転することでタペットが押し上げられ、それがバルブを押し開けて吸気または排気を制御します。カムの形状やタペットの設計によって、バルブの開閉タイミングやリフト量（バルブが開く高さ）が精密に制御されます。

直接カムがバルブを動作させると、バルブステムに横方向の力が加わり、バルブが曲がる可能性があります。タペットは、この横方向の力を吸収し、バルブステムに直線的な動きだけを伝えることで、バルブの損傷を防ぎ、正確な動作を保証します。

バルブクリアランス：エンジンの精密調整

エンジンの温度変化によってバルブの熱膨張が起こり、バルブクリアランス（タペット隙間）が変化します。冷間時と熱間時で最適なクリアランスを維持するために、タペット調整が必要となります。

バルブクリアランスが適切でないと、以下の問題が発生します。

クリアランスが大きすぎる場合: バルブの開閉が不完全になり、吸排気効率が低下し、パワー不足や燃費悪化につながります。また、カムとタペット間の打撃音が大きくなり（タペットノイズ）、不快な音が発生します。
クリアランスが小さすぎる場合: バルブが完全に閉じず、圧縮漏れが発生し、エンジンパワーの低下やオイル消費の増加につながります。また、バルブやカムの損傷を引き起こす可能性があります。

そのため、適切なバルブクリアランスの維持は、エンジンの性能と寿命を保つために非常に重要です。一般的には、吸気バルブと排気バルブで異なるクリアランスが設定されます。排気バルブの方が温度が高いため、吸気バルブよりも大きなクリアランスが設定されるのが一般的です。

タペットの種類

タペットには、調整方法によって大きく3種類に分類されます。

1. アジャストスクリュー式: タペット本体やロッカーアームに調整ねじ（アジャストスクリュー）が組み込まれており、ねじを回すことでクリアランスを調整します。整備性は高い反面、調整に熟練の技術と精密な工具が必要な場合があります。サイドバルブ式やOHV（オーバーヘッドバルブ）エンジンに多く用いられてきました。

2. シム式: 異なる厚さの金属板（シム）を交換することでクリアランスを調整します。アウターシム式とインナーシム式があり、整備性やシム脱落のリスクに違いがあります。直打式SOHC（シングルオーバーヘッドカムシャフト）やDOHC（ダブルオーバーヘッドカムシャフト）エンジンに多く用いられています。シムの交換には、カムシャフトの取り外しが必要となる場合もあります。

3. ラッシュアジャスター式: ハイドロリックリフターとも呼ばれ、エンジンオイルの圧力を利用して自動的にクリアランスを調整します。タペット調整が不要なため、メンテナンスの手間が軽減されますが、オイルの劣化や粘度変化の影響を受けやすいというデメリットがあります。近年では、この方式が主流となりつつあります。

まとめ

タペットは、一見すると小さな部品ですが、エンジンの正確な動作に不可欠な役割を担っています。その種類や調整方法を理解することで、エンジンのメンテナンスやチューニングに役立ちます。それぞれの形式にはメリットとデメリットがあり、エンジンの設計思想や性能目標によって最適なタイプが選択されます。適切なメンテナンスを行うことで、エンジンの性能を最大限に引き出し、長寿命化に貢献できます。

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