ダンケルク級戦艦

ダンケルク級戦艦：フランス海軍の誇りと悲劇

ダンケルク級戦艦は、第一次世界大戦後の軍拡競争の中で誕生したフランス海軍の戦艦です。ワシントン海軍軍縮条約の枠組みの中で建造された条約型戦艦でありながら、ドイツ海軍のポケット戦艦に対抗すべく、高い攻撃力、防御力、そして機動力を備えた艦艇として設計されました。本稿では、その設計思想、艦形、武装、そして波乱に満ちた艦歴について詳細に解説します。

独自の設計思想

ダンケルク級の建造は、ドイツのポケット戦艦の出現が大きな要因でした。この小型ながら強力な戦艦に対抗するため、フランス海軍は従来の戦艦設計にとらわれない革新的なアプローチを取り入れました。

まず、主砲と副砲に四連装砲塔を採用することで軽量化を図り、その分を防御装甲の強化や燃料搭載量の増加に充てました。また、機関の配置を工夫することで生存性を高め、当時としては先進的な対空電探も搭載されました。さらに、対空・対艦両用砲の採用や、水線下装甲区画への浮力材充填による対水雷防御など、多角的な防御システムが構築されました。これらの設計により、ダンケルク級は同時代の戦艦と比べて優れたバランス性能を有していました。

フランス海軍では、ダンケルク級をcuirassé rapide（高速戦艦）に分類しました。これは、従来の戦艦cuirassé d'escadreとは異なる、新しい運用ドクトリンに基づいた艦であることを示しています。他国では高速戦艦は通例非公式な呼称でしたが、フランス海軍はこれを公式艦種名として採用した唯一の例となりました。

艦形と武装

ダンケルク級の艦形は、イギリスのネルソン級戦艦に類似した艦橋前部に主砲塔を集中的に配置した設計です。しかし、これはフランス独自の設計思想に基づいたものであり、ネルソン級に見られたような後方砲塔の発射制限などの問題は発生していませんでした。船体形状は中央楼型船体で、クリッパー型の艦首が特徴的で、外洋での航行性に優れていました。

主砲は、1931年型33cm（52口径）砲を四連装砲塔に2基搭載しました。この砲は、既存の34cm砲よりも射程が長く、貫通力も優れていました。副砲には、対空・対艦両用砲である1932年型13cm（45口径）砲を採用し、これに加え、37mm機関砲と13.2mm機銃も多数搭載し、対空防御能力を強化しました。

ダンケルク級の防御は、船体中央部に装甲を集中配置する集中防御方式を採用していました。舷側水線部には最大240mmもの傾斜装甲が施され、水平防御も厚い装甲が施されていました。対水雷防御として、インナー・バルジ方式も採用していました。

機関と性能

ダンケルク級は、重油専焼水管缶6基とラテュ式ギヤード・タービン4基4軸の機関を搭載し、最大出力133,730馬力、最大速力31.5ノットを誇っていました。航続距離も長く、長期間にわたる作戦行動が可能です。機関配置はシフト配置を採用し、損傷時の生存性向上に配慮されていました。

艦歴

ダンケルク級は、1930年代後半から第二次世界大戦に参戦しました。当初はドイツのポケット戦艦追撃や連合国軍の輸送船団護衛などに従事しましたが、1940年のフランス降伏後、ヴィシーフランス海軍に所属しました。メルス・エル・ケビール海戦ではイギリス海軍の攻撃を受け、「ダンケルク」は損傷、「ストラスブール」は辛うじて脱出しました。その後、1942年のドイツ軍によるフランス占領に伴い、「ダンケルク」と「ストラスブール」はトゥーロンで自沈処分されました。

まとめ

ダンケルク級戦艦は、その革新的な設計と高い性能で、当時の戦艦建造に大きな影響を与えました。しかし、短命に終わったその艦歴は、フランスの悲運の歴史を象徴する出来事の一つとして記憶されています。その設計思想や艦形、そして戦場での活躍は、現在でも多くの海軍史研究者や愛好家の関心を集め続けています。

参考文献

ゴードン・ウィリアムソン『世界の軍艦イラストレイテッド1　ドイツ海軍の戦艦　1939 ― 1945』
ゴードン・ウィリアムソン『世界の軍艦イラストレイテッド２　ドイツ海軍のポケット戦艦　1939 ― 1945』
ジョン・ジョーダン『戦艦　AN ILLUSTRATED GUIDE TO BATTLESHIPS AND BATTLECRUISERS』
「世界の艦船」シリーズ（海人社）
* その他関連書籍、文献

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