ナルヴィ

ナルヴィ：北欧神話における二つの顔

北欧神話において、ナルヴィ(Narvi)という名は、異なる二つの存在を指して用いられています。一つは悪神ロキの息子、もう一つは夜の女神ノートの父である巨人です。それぞれのナルヴィについて、詳細に見ていきましょう。

1. ロキとシギュンの息子：ロキの呪縛と兄弟の悲劇

ロキの息子としてのナルヴィは、妻シギュンとの間に生まれたとされています。彼の物語は、『古エッダ』と『スノッリのエッダ』で異なる描写がなされており、解釈の多様性を示しています。

『古エッダ』の『ロキの口論』では、ロキが息子ナリ(Nari)の腸で拘束される場面が登場します。兄弟のナルヴィは狼の姿に変えられたと記述されていますが、ナリを殺したのは狼ではなく、明確には記されていません。

一方、『スノッリのエッダ』では、まずナリという息子が紹介され、その別名がナルヴィであるとされています。しかし、その後、別の息子ヴァーリが登場し、狼の姿に変えられたヴァーリがナリを引き裂き、腸を引きずり出すという描写が見られます。この際、腸を引きずり出したのは神々だとされています。

学者シーグルズル・ノルダルは、この違いについて、スノッリが当初ナリとナルヴィを同一人物と考えていたが、ロキの捕縛場面を描く際に、登場人物を増やす必要が生じ、誤解からオーディンの息子ヴァーリと同じ名前の息子を付け加えたのではないかと推測しています。オーディンの息子ヴァーリは、バルドルの復讐のために生まれた存在であり、ロキの息子ヴァーリもバルドルの復活を阻んだロキへの復讐という役割を担っていると考えられます。

ロキの息子としてのナルヴィは、父ロキの罪により、悲劇的な運命を辿ったと言えるでしょう。彼の存在は、北欧神話の残酷さと運命の皮肉さを象徴的に示しています。また、土星の第31衛星ナルビの名前の由来にもなっている点も興味深い点です。

2. 夜の女神ノートの父：巨人の系譜

もう一つのナルヴィ(NarfiもしくはNörfi)は、夜の女神ノートの父である巨人です。ヨトゥンヘイムに住む巨人として、『スノッリのエッダ』の『ギュルヴィたぶらかし』で言及されています。

研究者のN. M. ペターセンは、ノートという名の意味を、ドイツ語の「Narbe」（傷痕）から「Fordybning」（窪み）、「Kløft」（裂け目）へと考察し、「深淵」から「夜」が生まれるという解釈を提示しています。この解釈は、夜の女神ノートの神秘的な出自と、ナルヴィという巨人の存在感をより深く理解する上で重要な示唆を与えてくれるでしょう。

結論：多様な解釈と北欧神話の深淵

このように、ナルヴィという名は、北欧神話において異なる二つの存在を表しています。ロキの息子としてのナルヴィは、悲劇的な運命を辿った存在であり、一方、夜の女神ノートの父としてのナルヴィは、巨人の系譜に連なる神秘的な存在です。それぞれのナルヴィの物語は、北欧神話の複雑さと深淵さを示しており、解釈の多様性を許容する、豊かな神話的世界観の一端を垣間見せてくれます。これらの異なる解釈を比較検討することで、北欧神話の奥深さと魅力をより一層理解することができるでしょう。

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