ナレッジマネジメント

ナレッジマネジメントとは

ナレッジマネジメントは、企業が保有する情報や知識、そして従業員が持つノウハウや経験といった知的資産を組織全体で共有し、それを活用して創造的な業務へと繋げることを目指す経営管理手法です。これは企業経営における重要な管理領域の一つであり、生産管理、販売管理、財務管理、人的資源管理、情報管理に続く、第6の管理領域と位置づけられます。

個人の視点から見ると、ナレッジマネジメントは、個人が持つ暗黙知を形式知へと変換し、それを組織内で共有・明確化することで、業務効率の向上や新たな発見を容易にする役割を果たします。組織によって創造される知識は集合知と呼ばれ、その管理手法は、現代のビジネスにおいてますます重要視されています。

ナレッジマネジメントのアイデアは、マイケル・ポランニーの著書『暗黙知の次元』に端を発しますが、情報技術の発展、特にインターネットや人工知能技術の進化によって、情報工学や経営学の重要な研究対象となりました。

SECIモデル

ナレッジマネジメントを実践する上で、個人の知識を組織的に共有し、より高度な知識を生み出すためのフレームワークとして「SECIモデル」が提唱されています。このモデルは、以下の4つのプロセスから構成されており、各プロセスの頭文字をとってSECI（セキ）と呼ばれています。

これは、野中郁次郎氏と竹内弘高氏によって提唱されたもので、知識は「正当化された真なる信念」であり、個人間の相互作用や組織間の相互作用を通じて、ダイナミックに変化、深化、進化するという考えに基づいています。

1. 共同化（Socialization）: 組織内の個人や小グループが、経験や感覚を通じて暗黙知を共有し、新たな暗黙知を生み出すプロセスです。
2. 表出化（Externalization）: 各個人やグループが持つ暗黙知を言語化し、形式知として明確にするプロセスです。
3. 結合化（Combination）: 表出化された形式知を組み合わせ、新たな知識を創造するプロセスです。
4. 内面化（Internalization）: 新たに創造された知識を組織全体に浸透させ、個々の従業員が新たな暗黙知として習得するプロセスです。

具体的な手法

ナレッジマネジメントを効果的に行うための具体的な手法は多岐にわたりますが、それらは相互に関連し合い、独立して存在するものではありません。以下に代表的な手法をいくつか紹介します。

データマイニング

データマイニングは、人工知能や統計学を活用して、大量のデータから有益な知識やパターンを発見する手法です。主に、共起現象を分析し、ビジネスにおける意思決定や戦略策定に役立てることを目的としています。

例えば、スーパーマーケットでの購買データを分析し、「ビデオとガムが一緒に売れる傾向がある」というパターンを発見した場合、両者を同じ場所に陳列することで売上向上を図ることができます。あるいは、オンラインショッピングの履歴を分析し、「本Aを購入した顧客が後に本Bを購入する傾向がある」というパターンを発見した場合、本Aの購入者に本Bを推奨するダイレクトメールを送付することができます。

データウェアハウス

データウェアハウスは、多次元的にデータを処理することで、通常では気づきにくい傾向やパターンを発見する手法です。時間、空間、商品といった様々な次元でデータを分析し、販売量や顧客行動の傾向を把握することができます。

例えば、販売データを時間、地域、商品ごとに分析することで、「特定の地域で特定の商品の売れ行きが季節によって変動する」といった傾向を把握し、在庫管理やマーケティング戦略に活かすことができます。

知識共有化

知識共有化は、電子掲示板、メーリングリスト、知識ベース、オンラインコラボレーションツールなどを活用して、一部の人が持つ知識を組織全体で共有する活動です。これにより、従業員は必要な情報を迅速に見つけ、業務を効率化することができます。

企業内では、グループウェアなどのコラボレーティブソフトウェアを使って知識共有を促進する試みがよく行われます。また、インターネット上でも、質問サイトや専門家向けの情報共有サイトなど、様々な形式で知識共有が行われています。

可視化

可視化は、人間の視覚的優位性を利用して、複雑で理解しにくい情報を分かりやすく表現する手法です。グラフや図の作成だけでなく、CGや動画といった動的な表現を用いることもあります。

しかし、可視化された情報は、必ずしも有効に活用されるとは限りません。特に、暗黙知の可視化は非常に難しく、共有された知識が役に立たない場合も少なくありません。また、高度な技能や経験から得られる知恵は可視化が困難なため、その研究は課題が多く、進展が滞っている面があります。

エンタープライズサーチ

エンタープライズサーチは、企業内の様々な情報資産（文書、人事情報、経営情報など）を検索可能にするためのシステムやコンセプトです。従業員が迅速に必要な情報にアクセスできるようになり、業務効率の向上に繋がります。

その他の関連事項

ナレッジマネジメントに関連する技術や概念として、eラーニング、エキスパートシステム、知識ベース、知識表現、セルフサービスソフトウェア、セマンティックウェブ、ソーシャルネットワーク、インフォグラフィック、ナレッジマネジメントソフトウェア、エンタープライズコンテンツ管理などが挙げられます。

まとめ

ナレッジマネジメントは、企業が競争力を高め、持続的な成長を遂げるために不可欠な経営手法です。組織全体で知識を共有し、創造的な活動を促進することで、より良い製品やサービス、革新的なアイデアを生み出すことが期待できます。そのためには、組織文化の変革や従業員の意識改革も重要であり、継続的な取り組みが必要です。

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