ブラックバン

スコットランドの伝統菓子 ブラックバン：新年の祝祭を彩る魅惑のケーキ

ブラックバン（Black bun）またはスコッチバン（Scotch bun）は、スコットランドで古くから親しまれている、濃厚でしっとりとしたフルーツケーキです。独特の風味と歴史を持つこのお菓子は、新年を祝う特別な菓子として、スコットランドの人々の生活に深く根付いています。

ブラックバンの歴史と名前の由来

現在「ブラックバン」と呼ばれるようになったのは20世紀初頭のこと。それ以前は、似たようなプラムケーキが存在していましたが、スコットランドでは「ケーキ」といえば堅いビスケットを指すことが一般的だったため、このプラムケーキは「バン」と呼ばれるようになりました。

作家ロバート・ルイス・スティーヴンソンが、このバンを「人生に有害な黒いもの」と表現したという逸話も、ブラックバンという名前の由来に関係していると言われています。20世紀に入ると、香りの強さと豊富な果実が特徴となり、クリスマスプディングをペストリー生地で包んだような菓子として認識されるようになりました。

16世紀にはイタリアから伝わったという説もあり、その歴史は古く、スコットランドの文化と深く関わっていることがうかがえます。かつては十二夜に食べられていたようですが、スコットランド国教会によるクリスマス祝祭の禁止を機に、新年を祝う菓子へと変化していきました。

ブラックバンの特徴とレシピ

1826年のメグ・ドッズのレシピでは「スコッチ・クリスマス・バン」として、パン生地に干し果実や卵、ブランディを加えて焼く製法が記されています。しかし、その後、レシピは変化し、香料と果実に少量の小麦粉を加え、サクサクとした食感に仕上げるようになりました。

風味は胡椒の効いたもの、シナモン風味のもの、黒糖蜜を使ったものなど、多様なバリエーションが存在します。多くのフルーツケーキと同様、早めに作って数週間寝かせることで、より深い風味を楽しむことができます。食べる1ヶ月前に作っても良いとされていますが、イギリス伝来のクリスマスケーキやクリスマスプディングと同様に、食べるまで空気に触れさせないことが重要です。

ブラックバンは、クリスマスケーキや他のフルーツケーキ、デザートとは一線を画す独特の魅力を持っています。ファーストフッティング（正月の初訪問）の時、年明けの鐘の音と共に、花火が打ち上げられる瞬間、スコッチウイスキーを片手に「オールド・ラング・サイン」を歌う時など、様々な場面でスコットランドの人々に楽しまれています。ファーストフッティングの際には、ブラックバンを持参する習慣も残っています。

スコットランドでは、クリスマスにはダンディーケーキ、新年にはブラックバンを食べるのが伝統です。新年を祝う食べ物としては、シカ肉のローストと肩を並べるほど、伝統的な存在といえるでしょう。

ブラックバンの魅力

ブラックバンは、単なるお菓子を超えた、スコットランドの文化と歴史を凝縮した存在です。その濃厚な風味、独特の食感、そして新年を祝う習慣との結びつきは、スコットランドの人々の生活に深く根ざした、かけがえのない伝統となっています。クリスマスケーキとはまた違った、特別な風味と、伝統を守り続ける人々の思いが、このお菓子には込められていると言えるでしょう。

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