ブルーカーボン

ブルーカーボンとは

ブルーカーボンとは、海洋生態系によって隔離・貯留される炭素のことです。具体的には、海藻や海草、植物プランクトンなどが光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収し、海洋生態系に固定する炭素を指します。また、この炭素固定能力自体を指す場合もあります。

ブルーカーボンは、陸上の森林などに蓄積される炭素であるグリーンカーボンの対義語として、2009年に国連環境計画（UNEP）によって命名されました。

炭素の隔離プロセス

海洋における炭素の隔離プロセスは、大気中の二酸化炭素が海水に吸収されることから始まります。海中の二酸化炭素分圧が、大気中の二酸化炭素分圧より低い場合に、大気から海水へ二酸化炭素が移動します。海中の二酸化炭素分圧は、有機物の分解による放出や、海洋植物の光合成などによって変動します。

海水は、淡水と比較して、溶解している二酸化炭素だけでなく、炭酸水素イオンや炭酸イオンとしても大量の二酸化炭素を吸収できます。そして、海中の二酸化炭素は、藻場などの藻類が光合成によって体内に取り込み、有機炭素を生成します。この有機炭素は、砂泥底に埋没することで長期間貯留されます。

ブルーカーボン生態系

地球上の生物によって固定される炭素のうち、55%がブルーカーボンです。特に、炭素を隔離・蓄積する作用を持つ海洋生態系をブルーカーボン生態系と呼びます。

ブルーカーボン生態系の生息場は、地球上の海底の1%未満とわずかですが、海洋堆積物中の全炭素貯留量の5%以上を占めています。代表的なブルーカーボン生態系として、マングローブ林、塩性湿地・干潟、藻場、サンゴ礁があります。

マングローブ林

マングローブは、熱帯・亜[[熱帯]]の潮間帯に形成される植物群落です。特にインドネシアには、世界のマングローブ林の2割以上が集中しています。マングローブ林は、熱帯雨林や温帯林と比較して高い炭素貯留能力を持ち、樹齢が増すにつれてその能力も向上します。しかし、エビの養殖や開発により、世界的に減少傾向にあります。マングローブ林の開発は、土壌中の二酸化炭素を大気中に放出する可能性があり、UNEPは、マングローブ林の破壊による経済損失を年間最大42億ドルと試算し、保護を呼びかけています。

塩性湿地・干潟

塩性湿地は、アッケシソウやシチメンソウなどの塩生植物が生育する場所です。これらの植物は、塩分排出能力が高く、海水中でも水を吸収できます。干潟は、潮の満ち引きによって現れる砂泥地であり、様々な生物が生息しています。日本の干潟は、1945年以降、4割が消失しています。

藻場

藻場は、コンブやワカメなどの海藻や、アマモなどの海草が群生する場所です。従来、沿岸域は有機物分解により二酸化炭素を排出すると考えられていましたが、藻場の光合成によって二酸化炭素が吸収されることが明らかになりました。特に、アマモ場は、高い炭素貯留効果があることが報告されています。しかし、日本の藻場は、戦後の埋め立てによって大きく減少しています。現在、作澪や覆砂などの底質改善や、大型藻類の移植によって、藻場造成の取り組みが進められています。

サンゴ礁

サンゴ礁は、石灰化によって二酸化炭素を排出しますが、光合成による吸収も行っています。光合成が活発な場合は、二酸化炭素収支として吸収が上回る可能性があります。

海洋生態系による炭素の吸収と温暖化対策

産業革命以降、海洋は人間活動によって排出された二酸化炭素を大量に吸収してきました。海洋全体で約1550億トンの炭素が蓄積されており、そのうち年間2.5億トンがブルーカーボンとして沿岸域で吸収されています。しかし、海洋が二酸化炭素を吸収しすぎると、海洋酸性化が進み、海洋生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されています。

大気と海洋の間では、温室効果ガスの交換が行われており、人間活動によって排出された二酸化炭素の約30%を海洋が吸収しています。二酸化炭素の吸収に関する研究は、グリーンカーボンが中心でしたが、近年ではブルーカーボンの重要性も認識されてきました。河口や内湾は、かつて二酸化炭素の排出源とみなされていましたが、現在では吸収源となる可能性も示唆されています。

国内外の取り組み

日本国内の取り組み

日本は、長い海岸線を有しており、コンブやワカメなどの藻場が広範囲に分布しています。日本の海洋生態系は、年間173万トンの二酸化炭素を吸収していると試算されており、2030年には204万トン〜910万トンを吸収すると見込まれています。

2014年には、日本の海草場が二酸化炭素の吸収源であることが世界で初めて報告され、2017年にはブルーカーボン研究会が設立されました。横浜市や福岡市などでは、ブルーカーボンを活用した温暖化対策に取り組んでいます。

世界での動き

2017年の国連海洋会議では、マングローブなどの沿岸生態系を保護することが合意されました。アブダビでは、沿岸生態系の保全とブルーカーボンによる二酸化炭素排出量オフセットを目指すプロジェクトが進められています。

日本は、ブルーカーボンによる二酸化炭素削減量を温室効果ガスインベントリに登録していませんが、内閣府の革新的環境イノベーション戦略では、2050年までにブルーカーボンによる炭素貯留を実用化するとしています。

ブルーカーボンによる削減量をカーボン・オフセットとして取引する試みも、福岡市や横浜市で行われています。中国の厦門では、初めてブルーカーボンクレジットの取引が実施されました。

まとめ

ブルーカーボンは、地球温暖化対策における重要な役割を担う可能性を秘めています。海洋生態系の保全と活用によって、二酸化炭素の吸収を促進し、持続可能な社会の実現に貢献できると考えられます。今後の研究や技術開発、そして国際的な連携を通じて、ブルーカーボンのさらなる活用が期待されます。

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