ペン入れ

ペン入れについて

ペン入れとは、漫画制作において、鉛筆で描いておいた下書きの輪郭をインクや墨汁でなぞり直す工程を指します。このプロセスは、下書きをクリーンに仕上げるための重要なものであり、漫画家にとって作品のクオリティを決定づける役割を果たしています。以前は製図の分野でも使用されていた用語ですが、CAD技術の発展に伴い、その意味合いは漫画制作に特化しています。

漫画作成におけるペン入れ

漫画の執筆プロセスは、まず鉛筆を使って下書きを作成し、その後にペンを使って線を描き直すことから始まります。描いた鉛筆の線は、インクが乾いた後に消しゴムで消去されるため、この「ペン入れ」の段階は非常に重要です。インクは乾くまでに時間がかかるため、締め切りが迫った漫画家にとっては苦痛となってしまうこともあります。そのため、長谷川町子をはじめとして、漫画家たちはインク乾燥を早めるためにコンロであぶったり、ドライヤーを利用したりするエピソードも残っています。

アメリカなどでは、専業でペン入れを行うアーティストを指して「インカー」と呼ぶことがあります。これは、日本の漫画文化におけるペン入れの工程の重要性や専門性を示すものです。

使用される道具

ペン入れには、伝統的にインクつぼに浸したつけペン（Gペンや丸ペンなど）が用いられますが、1980年代以降はニーズに応じて油性フェルトペンや水性のミリペン、サインペンなども普及しています。特に、漫画専用に設計されたコミックペンが登場し、一般的に使用されるようになりました。また、製図用のロットリングペンや筆ペンも利用されるケースも見られます。

近年では、デジタル化が進み、パソコンを使ってペン入れを行う「デジタルペン入れ」が主流になりつつあります。この方法では、鉛筆の下書きをスキャンし、デジタルツールを利用してそのままペン入れを行い、入稿まで紙を使わないスタイルも出てきています。ボールペンを使う漫画家もいますが、特に油性ボールペンは印刷時にトラブルが生じやすく、商用原稿にはあまり推奨されません。実際、志村貴子のようにゲルインクボールペンを使う作家もいますが、その使い方は制限されています。

ペン先の選び方と質感

ペン入れで選択するペン先や筆記具は、作品全体のタッチや質感に大きな影響を与えます。この選択は漫画家にとって非常に重要なポイントです。たとえば、Gペンは線の太さを自由に変えられるため、人物や動植物を描く際に広く使われます。一方、タマペンやスクールペン、丸ペンは線が細く、物体を表現するのに適しています。

このように、ペン入れの工程や使用する道具は漫画家のスタイルや好みによって多様です。すべての作業をGペンで済ませる作家もいれば、丸ペンを重視する作家、さらにはミリペンと併用する作家もいます。

コマの枠線の描画にはかつてはカラス口が使われていましたが、現在ではミリペンや製図ペンを使うことが一般的です。漫画制作におけるペン入れは、技術と感性が交わる重要な役割を担っており、その進化は今後も続くことでしょう。

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