フェルトペン

フェルトペン、マーキングペン、マーカーペンとは

フェルトペン、マーキングペン、マーカーペン、またはマーカーとは、ペン先にフェルト、合成繊維、または合成樹脂を使用し、毛細管現象によってインクをペン軸から吸い上げて描画する筆記具および画材です。用途に応じて様々な名称があり、メーカーによっても多様な商品名が存在します。

概要

これらのペンは、ペン先に成形された繊維質や複雑な断面形状を持つ合成樹脂の芯を用い、毛細管現象によってインクを供給します。ペン先は極太から極細まで、形状も角張ったものから丸みのあるものまで様々です。インクも多種多様で、色のバリエーションも豊富です。使い捨てタイプから、インク補充やペン先交換が可能なタイプまで存在します。重力の影響を受けにくく、インクによっては表面の滑らかな素材にも描画でき、速乾性がある点が特徴です。

種類

フェルトペン

ペン先にフェルトを使用したペンの総称です。合成繊維を使用したものも、フェルトペンと呼ばれることがあります。一部の業者では「フエルトペン」という表記も使用します。

マーキングペン

日本独自の分類によるフェルトペンの一種で、JIS規格で規定されています。繊維や合成樹脂のペン先を使用した筆記具の総称ですが、水性マーカーの筆ペンは除きます。

マジックペン

正確な商品名は「マジックインキ」です。耐久性に優れた油性インクを使用し、日本で最初に登場したマーキングペンです。ペン先にはフェルトが使用されています。寺西化学工業から1953年に発売され、ガラス、プラスチック、布、皮、木材、金属、陶器など、あらゆる素材に描くことができます。現在では、この特徴を持つ油性マーカー全般を「マジック」と呼ぶことがあります。商品名「マジックインキ」の登録商標は、株式会社内田洋行が保有しており、本家のマジックインキはインク補充やペン先交換が可能です。

サインペン

紙への筆記に特化したペンで、ペン先に合成繊維や合成樹脂を使用します。もともとはぺんてる株式会社の登録商標でしたが、普及に伴い一般名詞化しました。従来のフェルトペンでは太い字しか書けませんでしたが、アクリル繊維のペン先を用いることで細字が可能になりました。当初は油性インクの「ぺんてるペン」が発売されましたが、紙への滲みや裏移りを改良し、水性インクの「ぺんてるサインペン」が1963年に発売されました。現在では、様々な筆記線幅のサインペンが販売されています。

蛍光ペン

別名ラインマーカーや蛍光マーカー。参考書や書類の重要な部分に印をつけるための水性インクのマーカーです。インクは透明で蛍光性があり、印字を塗り潰さないように工夫されています。主に学生の勉強やオフィスでの仕事で使用され、使い捨ての直液式やインク詰め替え可能なカートリッジ式があります。

暗記ペン

暗記を目的とし、ペンと透明シートを併用します。青色や緑色で塗った箇所は赤色の透明シートで、赤色で塗った箇所は緑色の透明シートで隠すと、塗った部分が見えなくなる原理を利用しています。暗記後にマークを消せる消しペンもあります。

ホワイトボードマーカー

ホワイトボード専用のマーカーです。表面がツルツルしていれば、ホワイトボード以外にも書くことができ、インクを布などで拭き取ることができます。インクには定着剤が含まれていない油性のアルコール系顔料インキが使用されます。

ドローイングペン

日本語独自の別名「ミリペン」。紙への描画に特化し、耐水性で均一な極細線が描けるように、ペン先に合成樹脂を使用します。広義には金属製のペン先を使う製図ペンも含まれます。ミリペンという名称を用いた製品は日本にはありませんが、サクラクレパスのピグマが代表的です。

ペイントマーカー

油性顔料インクを使用したマーカーです。白、金、銀などの色があり、様々な素材に描画できます。

名前書きペン

ペン先をプラスチック製で細くし、小物に名前などを書き込むことに特化したペン（またはマーカー）です。インクは主に油性で、滲みにくいように工夫されています。

布書き用ペン

布に書き込むことに特化したペン（またはマーカー）です。水に溶けにくいインクを使用し、洗濯しても落ちにくいように工夫されています。

筆ペン

毛筆風の文字を書くためのペンです。ペン先は細い合成繊維を束ねたものや、合成樹脂で筆の穂先に似せたフェルトペン・サインペンタイプのものがあります。

インクの種類

インクの種類によって特徴が異なりますが、改良により下記の特徴が当てはまらない場合もあります。

油性染料インク

速乾性があり、紙、プラスチック、金属、木材、ガラス、布、革、陶器など、多くの素材に書くことができます。ただし、染料が浸透する素材では裏移りする場合があります。

油性顔料インク

染料の代わりに顔料を使ったもので、染料に比べて速乾性は劣りますが、耐光性に優れており、屋外での使用に適しています。染料では作れない白や金、銀などの色も作れます。また、紙への裏移りも少ないです。

油性アルコール系顔料インク

ホワイトボードマーカーなどに使用されるインクです。近年では、従来の油性マーカーの用途にも使われることがあります。

水性染料インク

有機溶剤の代わりに水に湿潤剤などを加えた水溶液に染料を溶かしたものです。油性に比べて鮮やかで、紙に書いても滲みや裏移りが少ないですが、耐水性は劣ります（耐水性のある水性染料インクもあります）。主にサインペンや筆ペンなど、紙への筆記に特化したものに使用されます。

水性顔料インク

染料の代わりに顔料を使ったもので、紙に書いても滲みや裏移りがありません。耐水性、耐光性に優れ、プラスチック、ガラス、金属などの素材に書くことができますが、速乾性は油性に劣ります。

どのインクも、長期間太陽光に晒されると紫外線によって色素が破壊され、色あせたり消えてしまうことがあります。

マーカーの用途と普及

油性マーカー（マジックインキ）が登場する以前は、日本では筆が主な描画手段でした。しかし、墨汁の準備や乾燥時間、滲みなどの不便さがありました。油性マーカーは速乾性、携帯性に優れ、連続して描けるため、速報性や大きな文字が必要な場面で普及しました。学校では、生徒の持ち物を区別するために名前を書く習慣があり、素材を選ばない油性マーカーが重宝されました。

歴史

フェルトペンの原型は、1791年にイギリスの貴族によって考案されたと言われています。フェルトを金属の筒に装着し、インクを染み込ませて使用しました。19世紀後半には工業的に生産されるようになりました。

1910年、アメリカのリー・ニューマンがフェルトをペン先とするマーキングペンの特許を取得しました。1926年にはベンジャミン・パスカチがスポンジをペン先に用いた発明の特許を取得しましたが、商品化されませんでした。

1953年、アメリカのシドニー・ローゼンタールが「インクを入れたガラス管」と「フェルトのペン先」で構成されたペンを発明し、「マジックマーカー」として発売しました。当初は芸術用品市場を想定していましたが、ラベリングや芸術分野で広く普及し、マーカーペンの代名詞となりました。

1963年、ぺんてるが世界初の水性マーカー「ぺんてるサインペン」を発売しました。従来の油性インクに代わり、水性インクを使用することで、紙への書きやすさが向上しました。アクリル繊維のペン先により、細い線を描けるようになりました。当初は売れ行きが悪かったものの、アメリカのリンドン・ジョンソン大統領が気に入ったことで大ヒットし、日本でも普及しました。

1975年、ジェリー・ウルフがホワイトボードに書いた文字を乾いた布で消せる速乾性インクを発明し、パイロットがその特許権を取得し、世界初の「ホワイトボードマーカー」として発売しました。これによりホワイトボードとホワイトボードマーカーの普及が始まりました。

1971年、ドイツのスタビロが世界初の蛍光ペン「STABILO BOSS」を発売しました。
1973年、呉竹が筆ペン「くれ竹筆ぺん」を発売しました。
1982年、サクラクレパスが世界初の水性顔料サインペン「ピグマ」を発売しました。ミリ単位の線幅でラインナップを揃え、プロの漫画家にも愛用されるようになりました。

1990年頃まで油性マーカーの溶剤としてトルエンやキシレンが使われていましたが、人体に有害だったため、1980年代後半からアルコール系の溶剤を使った製品が発売されるようになりました。

日本での歴史

1953年、寺西化学工業が国産の油性マーキングペン「マジックインキ」を発売しました。当初は黒、赤、青の3色でしたが、色のバリエーションを増やしたことで人気を不動のものとしました。日本ではフェルトペンのことを「マジック」と呼ぶことがあります。

1959年、パイロットが油性マーキングペン「スーパーカラーインキ」を発売し、1963年には呉竹が水性インキの細字ペン「クレタケドリームペン」を発売するなど、他の筆記具メーカーも追従するようにマーキングペンの販売を始めました。

日本国外では

日本国外でも、用途や商品によって様々な名称が存在します。英語圏では、「Permanent marker（永久マーカー）」が油性マーカーを、「Non-permanent marker（非永久マーカー）」がホワイトボードマーカーのような水性マーカーを指します。「Highlighters」は蛍光ペン、「Security marker」は不可視インクを使用したマーカーを指します。「Election marker」は選挙の際に使用される、消えないインクのマーカーです。

英語圏では、「marker」「magic marker」「felts」「felt-pens」「felt tips」などの名称が使われ、「Sharpie」という商品名が有名です。オーストラリアでは「Texta」、ニュージーランドでは「Vivid」、南アフリカでは「Koki」が一般名詞化しています。

スペイン語圏では、「rotulador」「marcador」「plumon」などが使われ、蛍光ペンは「resaltador」「rotulador fluorescente」「fosforito」と呼ばれます。ロシア語では「фломастер（Flo-Master）」という名称も使われます。

インドでは、スケッチに使われるフェルトペンを「sketch pens」、通常のマーカーを「markers」と呼びます。マレーシアでは「pen」、フィリピンでは「Pentel Pen」、インドネシアでは「Spidol」、韓国では「Sign pen」「Name pen」と呼ばれます。

主要な商品

日本国内

マジックインキ - 寺西化学工業株式会社
サインペン - ぺんてる株式会社
ハイマッキー - ゼブラ株式会社
マイネーム - 株式会社サクラクレパス
ツインマーカー - 株式会社パイロットコーポレーション
ペンタッチ - 株式会社サクラクレパス
ソフトペン - プラチナ萬年筆株式会社
ポスカ - 三菱鉛筆株式会社
コピック - 株式会社Too

日本国外

（多数のため、割愛）

参考文献

『世界レベルの大阪ええもん』エイ出版社〈エイムック 1387〉、2007年7月

関連項目

マーカー (筆記具)
サインペン
ミリペン
蛍光ペン

外部リンク

ぺんてる サインペン - ニッポン・ロングセラー考 Vol.38 - COMZINE 2006年7月号
マジックインキ誕生物語
インクの種類（寺西化学工業株式会社）
ペン先事業（テイボー株式会社）

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