マリーチ

マリーチ：古代インド神話の聖仙

マリーチは、古代インド神話に登場する重要な聖仙（リシ）です。彼は、神々とアスラ（魔神）の祖であるカシュヤパの父として知られており、創造神ブラフマーとの深い繋がりを持つとされています。また、七聖仙（サプタルシ）の一人として数えられることもあります。

マリーチの起源と系譜

「マリーチ」という名前は、サンスクリット語で「きらきらした光、光線」を意味します。仏教の摩利支天と同語源ですが、両者は直接的な関係はありません。

『リグ・ヴェーダ』では、カシュヤパの父がマーリーチャ（「マリーチの子」の意）と呼ばれており、マリーチ自身は直接的には言及されていません。一方、『ラーマーヤナ』では、ブラフマーからマリーチ、マリーチからカシュヤパ、そしてカシュヤパから太陽神ヴィヴァスヴァット、さらにヴィヴァスヴァットから人類の祖マヌへと続く系譜が示されています。

『マハーバーラタ』では、マリーチはブラフマーの心から生まれた聖仙の一人として描かれています。この記述からも、マリーチが宇宙創造に深く関与した存在であることが分かります。マリーチから生まれたカシュヤパは、ダクシャの娘アディティとの間に12人のアーディティヤ神々をもうけました。その中のヴィヴァスヴァットからは、マヌとヤマ（死の王）が生まれました。

カシュヤパの父という役割以外では、マリーチはインド神話において直接的に活躍する場面は多くありません。しかし、彼の系譜上の位置づけは、インド神話の宇宙創世論を考える上で非常に重要です。

聖地ガヤーの起源とマリーチ

『アグニ・プラーナ』によると、マリーチはダルマヴラターという女性を妻としていました。ある日、マリーチはダルマヴラターに足をマッサージさせ、その後眠ってしまいました。そこにブラフマーが訪れたため、ダルマヴラターはもてなしのためにその場を離れました。目を覚ましたマリーチは、妻がいないことに怒り、呪いによって彼女を石に変えてしまいました。

ダルマヴラターは潔白を証明するため苦行を行い、神々がそれに応じました。しかし、神々ですらマリーチの呪いを解くことはできませんでした。代わりに、石をヴィシュヌの足跡のある聖なる石へと変化させることができました。この石はアスラ（魔神）を動けなくする力を持っていました。

後に、アスラのガヤが厳しい苦行を行い、神々はそれを恐れました。ブラフマーは、ガヤに自身を供犠として捧げるよう要求し、ガヤはそれを受け入れました。ヴィシュヌは、ダルマヴラターが変化した聖なる石でガヤを押さえつけ、動けなくしました。この場所が、現在も聖地として崇められているガヤーです。

マリーチは、直接的な活躍は少ないながらも、インド神話の宇宙創造と聖地ガヤーの成立という重要な出来事に深く関わった存在と言えるでしょう。彼の物語は、神々の権力、呪いの力、そして贖罪と救済といった、インド神話の様々な側面を象徴的に示しています。

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