ミズカマキリ

ミズカマキリについて

ミズカマキリ（Ranatra chinensis）は、カメムシ目タイコウチ科に分類される水生昆虫の一種です。その和名が示す通り、前脚の形状などが地上のカマキリを連想させますが、分類学的には全く異なる系統に属しています。

分布

日本列島のほぼ全域に分布しており、国外では台湾、朝鮮半島、シベリア、中国大陸から東南アジアにかけての広範な地域に生息しています。

形態と生態

成虫の体長はおよそ40ミリメートルから50ミリメートルで、全体的に細長い形状をしており、体色は暗褐色です。外見上の特徴として、長く伸びた呼吸管があり、この長さは雄では体長よりも長く、雌では体長とほぼ同じであることが知られています。

主に水田や池沼などの淡水域に生息していますが、同じタイコウチ科のタイコウチと比較すると、やや水深のある場所を好む傾向が見られます。これは、限られた生息空間を有効に利用し、異なる種が共存するための「棲み分け」の一例と考えられています。

ミズカマキリは、水生カメムシ類の中でも特に優れた飛行能力を持ち、日中でも活発に飛び回ることがあります。この高い飛行能力は、新たな生息地への移動や分散に有利に働き、環境が悪化した水域が回復した際に再び定着したり、人工的な水域にも比較的容易に移り住んだりすることを可能にしています。このため、市街地に近い池や沼でも見られることがあります。

水質の軽度な汚濁にはある程度の耐性がありますが、農薬の影響には非常に弱く、全国的に個体数が減少傾向にあります。地域によっては絶滅の危機に瀕しており、例えば長崎県では絶滅危惧I類、福岡県では準絶滅危惧種に指定されています。

食性は肉食性で、水中にいる他の昆虫、小魚、オタマジャクシなどを捕らえて餌とします。しかし、高い飛行能力とは対照的に、水中での動きはそれほど俊敏ではなく、タイコウチよりも遊泳能力は低いとされています。そのため、水草や水没した植物の茎、枯れた落ち葉などにしっかりと体を固定し、周囲の環境に溶け込むように擬態して静止し、通りかかった獲物を待ち伏せるという狩りのスタイルをとります。獲物を鎌状の前脚で捕らえると、口吻を突き刺して消化液を送り込み、体外で組織を分解してから溶けた体液を吸い上げます（体外消化）。消化には長い時間を要し、大きな獲物の場合、15時間以上にわたって捕食を続けることもあります。栄養を吸収し終わった後の獲物の殻や残骸はそのまま放棄します。

生活環は、およそ4月頃に冬眠から覚めた成虫が活動を開始し、5月から7月にかけて交尾が行われます。産卵は雌が単独で行い、陸上の湿ったコケなどの柔らかい場所に尾の先を差し込むようにして一つずつ卵を産み付けます。卵は細長い白色をしており、先端に2本の糸状の突起があります。この突起は、卵が呼吸を助ける役割を果たしていると考えられています。卵は約10日で孵化し、幼虫は孵化後すぐに水中で生活を始めます。幼虫は5回の脱皮を経て、およそ40日で成虫になります。成虫は冬が近づく11月頃になると、水底の物陰などで冬を越します。

日本で見られる近縁種

日本にはミズカマキリの他にも、いくつかの近縁種が生息しています。

ヒメミズカマキリ（Ranatra unicolor）
体長が25ミリメートルから30ミリメートルとミズカマキリより明らかに小さく、呼吸管も体長より短いため容易に区別できます。全国に広く分布していますが、ミズカマキリに比べて個体数は多くありません。特徴として、ヒシなどの水生植物の組織内に産卵するため、陸や水際への依存度が非常に低いことが挙げられます。主な餌は水面に落ちた小昆虫です。

マダラアシミズカマキリ（Ranatra longipes）
ヒメミズカマキリに似ていますが、中脚の付け根や関節部分に黒い斑紋があることで識別できます。日本国内では沖縄県の八重山列島が分布の北限とされ、希少な種と考えられています。日本以外では台湾や東南アジアにも分布しています。

関連項目

水生昆虫
水生カメムシ類

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