ミツクリザメ

ミツクリザメ：深海の珍客、その生態と謎

ミツクリザメ( Mitsukurina owstoni) は、ネズミザメ目に属する深海性のサメです。その独特の容姿から「ゴブリンシャーク」とも呼ばれ、世界中の研究者を魅了し続けています。本稿では、ミツクリザメの形態、生態、生息地、人間との関わりについて、詳細に解説します。

ミツクリザメの名前の由来

学名 Mitsukurina owstoni は、発見者であるイギリスの貿易商アラン・オーストン氏と、東京大学三崎臨海実験所の初代所長、箕作佳吉博士に敬意を表して命名されました。オーストン氏は深海生物の採集に熱心で、三崎臨海実験所に多くの標本を提供していました。1898年、相模湾で採集された、当時未知の奇妙なサメが、その中のひとつでした。この標本を基に、魚類学者デイビッド・スター・ジョーダン博士が新種として記載しました。英名「ゴブリンシャーク」は、その特異な容姿から付けられた呼び名です。

生息地と分布

ミツクリザメは世界中の深海に生息していますが、その発見例は非常に稀です。特に、日本近海、特に駿河湾、相模湾、東京湾海底谷などで比較的多く報告されています。水深30～1300m以上の深海に生息し、表層付近で見られることはほとんどありません。近年では台湾の北西沖でも多数の個体が発見されており、生息域の広がりを示唆しています。オーストラリア、大西洋、インド洋などからも報告例がありますが、いずれも散発的なものです。

形態

ミツクリザメは、最大で約6mに達すると推定されています。生きているときは灰色がかったピンク色ですが、死後には褐色に変色します。この独特のピンク色は、皮膚の下の血管によるものです。

最も顕著な特徴は、長く平たい[吻]です。この吻には、電気受容器であるロレンチニ瓶が多数存在し、海底の獲物を探知するのに役立っていると推測されています。顎は通常は引っ込んでいるものの、写真や図では、しばしば大きく突き出した状態が描かれています。これは、サメが死後、あるいは船上で逆さに吊るされた際に、顎が飛び出すためです。上顎は湾曲しており、鳥のくちばしのような形をしています。歯は前部と後部で形状が異なり、前部の歯は長く鋭く、後部の歯は比較的短く、獲物を噛み砕くのに適しています。

生態

ミツクリザメは、その長い吻で海底の餌を探し、大きく顎を突き出して獲物を捕らえます。獲物は主に深海性の甲殻類、頭足類、硬骨[[魚類]]、他のサメ類です。長く伸びた歯は、獲物を逃さないためにあると考えられています。硬い殻を持つカニなどは、奥歯で噛み砕いて食べます。

成熟サイズは雄で全長264cm、雌で335cmですが、近年台湾沖で捕獲された4.7mの雌からは6匹の胎児が確認されており、卵食型であると推測されています。

人との関わり

ミツクリザメは一般的に人間に危害を加えることはありません。しかし、テレビ番組でダイバーに噛み付くシーンが放送されたことがありますが、これはサメの顎の動きを調べるための実験的なものでした。

水族館での飼育は非常に難しく、長期飼育に成功した例は少ないです。世界各地の水族館では、剥製標本や液浸標本が展示されています。日本でも、いくつかの水族館で生体展示や標本展示が行われています。2013年には、相模湾で多数のミツクリザメが漁網にかかるという出来事がありましたが、飼育は困難でした。

今後の研究

ミツクリザメは、深海という未解明な環境に生息する、謎多きサメです。その生態や行動、生息数など、まだ解明されていない点が数多く残されています。今後の研究により、この希少なサメの生態がより詳しく解明されることが期待されます。

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