メタミドホス

メタミドホス：高い殺虫効果と強い毒性を併せ持つ農薬

メタミドホスは、有機リン化合物に分類される農薬の一種です。強力な殺虫効果を持つ一方、人体への毒性も非常に強いことが知られています。そのため、世界各国でその使用は厳しく規制されており、多くの国では使用が禁止、または特定の用途のみに制限されています。

メタミドホスの歴史と開発

メタミドホスは1964年、西ドイツのバイエル社によって開発されました。翌年にはアメリカ合衆国のシェブロン社が独自の製法で特許を取得しています。高い殺虫効果から、中国、アメリカ、南米、オーストラリアなど世界各国で広く使用されてきました。バイエル社の商品名「タマロン」や「モニター」は、世界的に高いシェアを誇っていました。しかし、その高い毒性から、日本では農薬取締法に登録されておらず、農薬としての使用は認められていません。

メタミドホスの性質

純粋なメタミドホスは無色の針状結晶ですが、工業的には黄色い粘稠液として製造されます。水、アルコール、アセトンなどに溶けやすく、農薬としては水溶液や粒剤として流通していました。特徴的なのは、加[[水分解]]によって生じるメタンチオールによる独特の臭気と、目への強い刺激性です。また、別の農薬であるアセフェートの加[[水分解]]によって生成されるという点も重要です。

メタミドホスの製造方法

メタミドホスの製造方法は主に2種類あります。1つは、三塩化リンと硫黄から塩化チオホスホリルを得て、メタノールでエステル化、その後メチル基の転位とアンモニアとの反応を行う方法です。もう1つは、O,O-ジメチルホスホロクロロチオエートをアンモニアでアミド化し、その後メチル基を転位させる方法です。いずれも複雑な化学反応を伴う工程となります。

メタミドホスの用途

メタミドホスは、イネ、コムギ、トウモロコシ、綿花などの農作物におけるアブラムシ、ヨコバイ、ウンカ、イネアザミウマなどの害虫防除に使用されてきました。殺ダニ剤としての効果も認められています。しかし、使用が許可される農作物は国によって異なり、規制が厳しくなっています。

メタミドホスの規制

国際的にはコーデックス委員会が、様々な食品におけるメタミドホスの残留基準値を設定しています。基準値は食品の種類によって異なり、乾燥ホップでは5 ppm、アルファルファ飼料では2 ppmなどとなっています。

中国における規制

中国では、野菜、キノコ、茶、果物などへの使用は禁止されてきました。穀物など一部作物では残留基準が設定されていましたが、違法使用による中毒事件が多発したため、2000年代初頭から段階的に規制が強化され、2009年には全ての生産と使用が禁止されました。

日本における規制

日本では農薬登録されておらず、農薬としての使用は禁止されています。しかし、アセフェートの分解産物であること、また世界中で使用されていることから、一部食品について残留農薬の規制値が設定されています。

アメリカにおける規制

アメリカでは1996年の食品品質保護法制定後、有機リン系農薬の規制値が見直され、ブロッコリー、キャベツ、キュウリなど、様々な作物について残留基準値が設定されています。

メタミドホスの毒性

メタミドホスは、神経伝達物質アセチルコリンを分解する酵素、コリンエステラーゼの活性を阻害します。これにより神経機能が麻痺し、嘔吐、腹痛、下痢、頭痛、めまい、呼吸困難、昏迷などの症状を引き起こし、重症の場合は死に至る可能性があります。サリンと同様の作用機序を持つものの、サリンよりも毒性は低いものの、依然として危険な物質です。長期曝露による神経障害も懸念されます。治療は、除染、活性炭投与、アトロピンやプラリドキシムの投与など、状況に応じて行われます。

メタミドホス関連事故

メタミドホスの高い毒性と、違法使用による健康被害は深刻な問題となっています。中国では、中国製冷凍餃子中毒事件や事故米不正転売事件など、メタミドホスが原因と疑われる食中毒事件が発生し、社会問題となりました。

環境中での分解

メタミドホスの環境中での分解速度は、土壌の種類、水質のpH、日光の存在などによって大きく異なります。土壌中では数日から数十日、水中ではpHによって3日から300日以上の半減期を示すことが報告されています。

まとめ

メタミドホスは、強力な殺虫効果を持つ一方で、人体への高い毒性を有する農薬です。その毒性から、世界各国で厳しく規制され、使用は大きく制限されています。食の安全を守るためには、メタミドホスに関する正しい知識と、適切な規制の維持が不可欠です。

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