ラブルパイル天体

ラブルパイル天体とは

ラブルパイル天体（Rubble pile）は、日本語で「破砕集積体」とも呼ばれ、宇宙空間に存在する岩塊や破片が重力によって集積し、形成された天体のことです。小惑星研究者の間では以前からその存在が予測されていましたが、日本の小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワを観測したことで、その実在が初めて確認されました。

ラブルパイル天体の起源

小惑星の観測が進むにつれて、軌道要素がよく似た小惑星が存在することが明らかになってきました。特に軌道要素が類似した小惑星は「族」として分類されています。これらの族に属する小惑星は、かつて存在した母天体が、他の天体との衝突によって破壊され、その破片が再び集まってできたと考えられています。

もし、破片同士の相対速度が小さい場合、衝突・破壊時に飛び散った破片が重力によって再び集積し、新たな天体を作り出すことがあります。これがラブルパイル天体の起源です。小惑星帯では、太陽系形成後から現在まで、このような衝突と再集積によるラブルパイル天体の形成が繰り返されています。

小惑星の軌道や強度によってばらつきはありますが、直径数km程度の小惑星は約10億年、数百mの小惑星は約数千万年という間隔で他の天体との衝突によって破壊されると考えられています。現在観測されている多くの小惑星は、このような破壊と再集積の過程を経ていると推測されています。

小惑星帯だけでなく、木星型惑星の衛星にもラブルパイル天体と推定されるものが複数存在しています。

ラブルパイル天体の特徴

ラブルパイル天体は、岩石や破片が重力で集まって形成されるため、内部に多くの隙間が存在し、密度が低いと考えられています。また、破片同士は主に重力によって結合しているため、天体自体の強度も低いと推測されます。

S型小惑星の主要な構成物質と考えられている普通コンドライトの密度は約3.2g/cm³、C型小惑星の主要な構成物質であると考えられている炭素質コンドライトの密度は約3.0g/cm³です。これらと比較して大幅に密度が低い小惑星は、ラブルパイル天体である可能性が高いと考えられます。

これまでの小惑星探査とラブルパイル天体

小惑星探査は、1991年に木星探査機ガリレオが小惑星ガスプラをフライバイしたことから始まりました。ガリレオはガスプラの質量を測定できなかったため、ガスプラがラブルパイル天体であるかどうかを判断する材料は少ないのが現状です。その後、ガリレオは1993年に小惑星イダをフライバイし、その密度が約2.6g/cm³であること、内部空隙率が約30％であると推定されました。しかし、イダがラブルパイル構造を持つのか、それとも内部に大きな割れ目がある一枚岩の天体なのかは、研究者の間でも意見が分かれました。

1997年には、NEARシューメーカーが小惑星マティルドをフライバイし、マティルドの密度が1.3g/cm³、内部空隙率が50％を超えると測定され、ラブルパイル天体である可能性が高いとされました。しかし、これもフライバイによる短期間の観測であったため、確定には至りませんでした。

2000年には、NEARシューメーカーが小惑星エロスの周回軌道に入り、約1年間にわたって観測を行いました。エロスの密度は約2.67g/cm³、内部空隙率は約30％と推定されましたが、エロス表面に大規模な構造地形が見られ、クレーターもその影響を受けていることから、破片の寄せ集めであるラブルパイル天体ではなく、内部構造を持つ天体であると結論づけられました。

はやぶさによるイトカワ探査

それまで、数百メートル程度の小惑星はラブルパイル天体ではなく、単一の構造を持つと考えられていました。しかし、2005年に小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワに到着し、2ヶ月以上にわたる探査の結果、イトカワがラブルパイル天体であることが明らかになりました。

「はやぶさ」による探査の結果、イトカワの密度は約1.9g/cm³、全空隙率は40％を超えることが判明しました。これは、これまでに探査された小惑星の中でも特に高い数値です。また、イトカワ表面には多数の岩塊が見られ、中でも最大の岩塊「ヨシノダイ」は、イトカワ本体の約10分の1にもなる長さ約50メートルの大きさです。

ヨシノダイは、イトカワで形成されたクレーターによって生成されたものではなく、イトカワを形成する際に衝突した破片の一部、あるいはイトカワの母天体にあった岩塊であると考えられています。クレーターの形成によってできたわけではない岩塊の存在は、イトカワが衝突によって生まれた破片が集積したラブルパイル天体であることの有力な証拠となりました。また、イトカワの形状がラッコに似ているのは、岩塊が集積して頭と胴体の部分が形成され、その後合体したためであるという説もあります。

さらに、イトカワ表面のクレーターが少なく、形が歪んでいるのは、イトカワがラブルパイル天体であるため、小天体の衝突時に内部の岩塊が動くためと推測されています。イトカワ表面で確認された角礫岩は、イトカワの母天体にもともと存在していたと考えられています。これらの事実からも、イトカワがラブルパイル天体であることが裏付けられました。

ラブルパイル天体探査の意義

現在の小惑星の多くは、衝突、破壊、そして破片の集積を繰り返す過程を経て形成されたと考えられています。「はやぶさ」によるイトカワの観測は、その仮説を初めて実証したという点で大きな意義があります。しかし、イトカワはS型小惑星であり、他のタイプの小惑星にも同じような構造が見られるのかどうか、また、ラブルパイル天体が実際に重力のみで結合しているのか、他の結合力が働いているのかなど、解明すべき点は多く残されています。

今後、ラブルパイル天体の内部構造についてさらに詳しく調査が進めば、小惑星の成り立ちだけでなく、太陽系の歴史の理解もより深まることが期待されます。また、イトカワのような地球近傍小惑星は、将来地球に衝突する可能性もあり、その内部構造を把握することは、スペースガードの観点からも非常に重要です。

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