三垣

三垣（さんえん）

古代中国の宇宙観において、天球を区分する方法は様々でしたが、特に主要な体系として「三垣二十八宿（または三垣二十八舎）」が挙げられます。この「三垣」とは、天の北極を中心に据え、天球上の広大な範囲を三つの領域に区分したものです。この区分は、単なる天文学的な領域分けにとどまらず、地上の秩序、特に王朝の宮廷や社会構造を天上世界に投影したものと考えられています。三垣は、それぞれ特定の星官（古代中国の星座）を基準として定められており、それぞれの領域が持つ象徴的な意味合いも異なります。

三垣を構成する三つの領域は以下の通りです。

紫微垣（しびえん）
三垣の中央に位置することから「中垣」とも呼ばれます。この領域は、天の北極星のすぐ周囲を取り囲むように広がっています。紫微垣は、天上世界の宮殿、すなわち天帝や皇帝が住む場所を象徴すると考えられました。そのため、この領域に含まれる星官は、宮廷の建物やそこに関わる人々（后妃、官僚など）に見立てられています。最も重要な中心的な領域であり、不動の北極星を中心に位置づけられることから、地上の皇帝の権威や安定を象徴していました。

太微垣（たいびえん）
三垣の上方に位置することから「上垣」とも呼ばれます。この領域は、北斗七星より南側にあり、二十八宿のうち「星」「張」「翼」「軫」といった星座よりも北に位置する広がりを持っています。太微垣は、天上世界の庭園、あるいは朝廷や政府の機関を象徴するとされました。ここでは、地上の官僚たちの活動や政治的な出来事が反映されると考えられ、様々な星官が大臣や役人、あるいは政府の建物に見立てられています。地上の朝廷に対応する領域として、政治の中枢を表す場でした。

* 天市垣（てんしえん）
三垣の下方に位置することから「下垣」とも呼ばれます。この領域は、二十八宿のうち「房」「心」「尾」「箕」「斗」といった星座よりも北側に位置する広がりを持っています。天市垣は、天上世界の市場を象徴すると考えられました。ここでは、人々が取引を行い、様々なものが流通する様子が表現されています。この領域に含まれる星官は、市場に関わる商人や、様々な商品、あるいは交易の場そのものに見立てられています。庶民の生活や経済活動を反映する領域として捉えられていました。

これらの三垣を基準とした星座（星官）群は、それぞれが「藩垣」、すなわち城壁の形を象っており、東西に延びる壁で区切られ、南北は開かれた門のようになっています。紫微垣は宮殿の城壁、太微垣は庭園や朝廷の城壁、天市垣は市場の城壁をそれぞれ象っていると考えられました。

三垣という概念が、単なる星座の集まりから天球上の広大な領域区分として認識されるようになるまでには、歴史的な変遷があります。例えば、古代の天文書である『晋書』の天文志の段階では、まだ三垣を天球上の特定の領域として明確に区分する考え方は見られませんでした。その後、隋の時代に丹元子によって著された星座歌『歩天歌』において、天の北極を中心に星座が三垣に分類され、それぞれの領域が示されました。この『歩天歌』における分類が広く普及し、以後、三垣は二十八宿と並ぶ天上世界の主要な区域名として定着しました。三垣二十八宿という体系は、古代中国の宇宙観や社会構造を天上に投影したものであり、単なる星の並び以上の象徴的な意味を持っていました。

三垣の概念は、後の時代の中国や、その天文思想を取り入れた東アジアの国々においても、暦法や占星術、さらには文学や芸術に影響を与えました。天上世界を三つの重要な領域に分けるという考え方は、中国独自の天文体系の大きな特徴の一つと言えます。

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