乳幼児死亡率

乳幼児死亡率とは

乳幼児死亡率（U5MR）は、出生した子供が5歳の誕生日を迎えるまでに死亡する確率を示す指標です。通常、出生1000人に対する死亡数で表され、例えば「乳幼児死亡率100」とは、出生した1000人の子供のうち100人が5歳未満で死亡することを意味します。この数値は、その社会の保健医療水準や生活環境を反映する重要な指標とされています。

歴史的変遷

乳幼児死亡率は、医療技術の進歩、特にワクチン接種の普及とともに大きく低下してきました。17世紀から18世紀のヨーロッパでは、消化器系や呼吸器系の感染症が主な死亡原因でしたが、感染症対策の進展により死亡率は低下しました。この死亡率の低下は、平均寿命の延伸にもつながりました。

1950年代以降、アジアやアフリカなどの地域でも乳幼児死亡率は低下しました。これは、サルファ剤やペニシリンなどの医薬品の普及、媒介害虫駆除などの公衆衛生対策の実施が主な要因です。国際連合児童基金（UNICEF）は、第二次世界大戦後にヨーロッパで結核ワクチンの接種を開始し、その後、世界各地で結核、イチゴ腫、ハンセン病、マラリア、トラコーマなどの対策キャンペーンを実施しました。1974年には、世界保健機関（WHO）が拡大予防接種計画（EPI）を開始し、ジフテリア、百日咳、破傷風、はしか、ポリオ、結核といった感染症の予防接種を推進しました。

予防接種以外にも、経口補水療法（ORT）の普及が脱水による乳幼児死亡の減少に貢献しました。また、女性の教育水準の向上は、医療に関する理解を深め、妊娠、出産、育児における健康増進に大きな影響を与えています。

乳幼児死亡率と人口動態

開発途上国では、乳幼児死亡率が高い傾向にあり、これが多産の一因となっています。一方で、乳幼児死亡率の低下は、出生数の低下につながることもわかっています。例えば、アフリカの出生数は1950年代の6.6人から2000年には5.1人に減少しました。同時期に、アジアや中南米では6人から2人にまで減少しました。出生数の低下は、女性の身体的負担軽減や社会進出の促進につながると考えられています。

国際目標

持続可能な開発目標（SDGs）では、ターゲット3.2として、全ての国が新生児死亡率を出生1000件中12件以下、5歳未満児死亡率を出生1000件中25件以下にまで減らすことを目標に掲げ、2030年までに新生児と5歳未満児の予防可能な死亡を根絶することを目指しています。

乳幼児死亡の原因

2019年の世界の乳幼児死亡数は約530万人と推定されています。主な死因としては、早産合併症、下気道感染症、分娩関連事象、下痢などが挙げられます。また、ワクチンで予防可能な感染症による死亡も大きな割合を占めています。特に、生後28日未満の新生児死亡が全体の約46%を占めており、新生児期の健康管理が重要であることがわかります。

まとめ

乳幼児死亡率は、社会全体の健康状態を測る重要な指標です。医療技術の進歩や公衆衛生対策の強化により、世界的に低下してきましたが、依然として開発途上国では高い水準にあります。SDGsの目標達成に向け、国際社会全体で更なる取り組みが必要です。

参考資料
アンガス・ディートン 著、松本裕 訳『大脱出―健康、お金、格差の起原』みすず書房、2014年

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