享保小判

享保小判とは

享保小判は、江戸時代中期に流通した一両としての価値を持つ小判です。正徳4年（1714年）に発行が開始され、享保小判と享保一分判を合わせて「享保金」と総称します。正徳金銀の品位をわずかに向上させたものですが、実質的な改鋳ではないため、発行時期については諸説あります。正徳5年（1715年）説や、徳川吉宗が将軍に就任した享保元年（1716年）説などが存在します。

享保小判の特徴

享保小判の表面には、鏨（たがね）で茣蓙目模様が刻まれています。上下には桐紋を囲む扇形の枠があり、中央上部に「壹两」、下部に「光次（花押）」の極印が打たれています。裏面には中央に花押、下部左端に小判師の験極印、さらに吹所の験極印が打たれています。慶長小判と同様の形式で、先行する正徳小判とも似ていますが、裏面の花押が慶長小判に比べて小さく、表の「光次」の文字が「離れ光次」になっている点が特徴です。「離れ光次」とは、「光」の末画と「次」の第四画が離れている状態を指します。また、初期には正徳後期小判と呼ぶべきものも含まれますが、鋳造期間の大部分が享保期に属するため、区別して享保小判と呼ばれています。

裏面右下に「弘」または「久・」の極印が打たれているものがありますが、その意味は現在も不明です。また、佐渡の金座で鋳造されたものは、裏面に「佐」の極印があり、「佐渡小判」または「佐字小判」と呼ばれます。佐渡小判の小判師と吹所の験極印の組み合わせは、「筋」「神」、「利」「神」、「高」「神」、「又」「神」に限られます。

享保小判の歴史

享保小判は、慶長小判への復帰を目指して発行された正徳金に対する評判が悪かったこと、また宝永小判の量目不足を解消するために、慶長小判と同等の品位に回復させる目的で鋳造されました。しかし、金の産出量が減少していたため、品位の低い元禄金や量目の少ない宝永金を回収しての改鋳が主流となり、名目上の通貨量が減少しました。加えて、徳川吉宗による殖産興業や新田開発による米の増産が重なり、物価、特に米価が下落しました。さらに、緊縮財政によって不況に陥り、年貢米の換金効率が低下し、武士層は困窮することになりました。

宝永4年（1707年）に藩札の発行が禁止されていましたが、各藩からの要望や通貨不足緩和策として、幕府は享保15年（1730年）に藩札発行を解禁しました。

享保小判と正徳小判は、元文3年（1738年）に通用停止となりましたが、引換回収のために期間が延長され、最終的には文政10年（1827年）に回収が完了しました。

享保一分判

享保一分判は、享保小判と同じ品位で、量目が1/4の長方形の短冊形の一分判です。表面には上部に扇枠の桐紋、中央に横書きで「分一」、下部に桐紋が配置されています。裏面には「光次（花押）」の極印が打たれています。慶長一分判と同様に年代印はありません。また、裏面右上に「佐」の文字の極印が打たれた佐渡金座鋳造の「享保佐渡一分判」があり、「佐字一分判」とも呼ばれます。

享保一分判も、小判と同様に「光次」の文字が「離れ光次」であることから、正徳一分判と区別されます。また、表面の「一」の文字の末尾が短く、枠を突き抜けていないことが特徴です。

享保金の量目と品位

量目

小判の規定量目は四匁七分六厘（17.76グラム）
一分判の規定量目は一匁一分九厘（4.44グラム）

実測値の平均は、小判が4.74匁（17.78グラム）、一分判が1.19匁（4.46グラム）です。太政官による『旧金銀貨幣価格表』では、小判1枚あたりの量目は17.67グラムとされています。

品位

* 規定品位は慶長金と同位（金86.79%、銀13.21%）

明治時代に、旧金座や造幣局によって分析が行われ、享保金の分析値は以下の通りです。






雑分とは、銅や鉛などを指します。

享保金の鋳造量

『吹塵録』によれば、享保小判と一分判の合計鋳造量は8,280,000両です。一分判が総鋳造量の半分を占めるとされ、4,140,000両（16,560,000枚）、小判も同量です。佐渡判は、享保元年（1716年）から享保9年（1724年）までの間に、小判16,800両、一分判16,800両（67,200枚）、合わせて33,600両が鋳造されたと推定されています。

金座における鋳造手数料は、1000両あたり、手代10両、金座人10両2分、吹所棟梁4両でした。

まとめ

享保小判は、江戸時代の貨幣経済において重要な役割を果たしました。その発行背景や特徴、流通、そして関連する一分判に至るまで、多岐にわたる情報を提供しました。これらの情報を参考に、享保小判への理解を深めていただければ幸いです。

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