伏見稲荷大社

伏見稲荷大社：歴史と信仰の深淵

伏見稲荷大社は、京都府京都市伏見区に鎮座する、古くから続く由緒ある神社です。稲荷山のふもとに本殿を構え、稲荷山全体を神域として崇拝されています。全国に点在する約3万社にも及ぶ稲荷神社の総本社であり、その信仰は古くから人々の生活に深く根付いています。

起源と発展：

稲荷信仰の起源は、稲荷山の三つの峰を神そのものとして崇拝したことに遡ります。当初は農耕神として祀られていましたが、時代と共に殖産興業の神としても信仰され、広く人々の篤い崇敬を集めるようになりました。古くは『枕草子』や『蜻蛉日記』などの古典にもその名が記されており、平安時代には東寺の鎮守神となり、真言密教との結びつきを通して信仰はさらに拡大しました。

平安時代には、朝廷や貴族からの崇敬も厚く、社殿の造営や修造には、藤原時平や源頼朝、足利義教といった著名な人物も関わっていました。しかし、応仁の乱で社殿は焼失。その後、社僧たちの勧進によって再建され、明応8年（1499年）には遷宮が行われました。

明治時代の神仏分離令によって、境内の仏堂は廃絶されましたが、同時に信者による鳥居の奉納が盛んになり、現在見られる千本鳥居の風景が形成されました。東寺との深い関係は、稲荷祭の最終日に行われる、東寺の僧侶による還幸神輿への読経の儀式に今も残っています。

祭神と信仰：

伏見稲荷大社の祭神は、宇迦之御魂大神（うかのみたまのおおかみ）を主祭神とし、佐田彦大神（さたひこのおおかみ）、大宮能売大神（おおみやのめのおおかみ）、田中大神（たなかのおおかみ）、四大神（しのおおかみ）の五柱です。これらの神々は、稲荷大神の広大な神徳を象徴する神名化と考えられています。

稲荷神は、元来五穀豊穣を司る神でしたが、時代と共に商売繁昌、産業興隆、家内安全、交通安全、芸能上達など、多岐にわたる福徳をもたらす神として信仰されるようになりました。摂社の田中大神や四大神については、稲荷神と深い関わりを持つ地主神や土着神と考えられていますが、その詳細は明らかになっていません。

歴史的変遷：

稲荷大社の歴史は、秦氏との関わりや、空海（弘法大師）との伝承など、様々な説話に彩られています。『山城国風土記』には、秦氏の祖霊として創建されたとの記述があり、空海との縁起は、東寺に伝わる文献に記されています。これらの伝承は、稲荷信仰の古さと広がりを示すものです。

平安時代には隆盛を極め、多くの参拝者を集めました。鎌倉時代には神仏習合が進み、祭神に本地仏が結びつけられました。室町時代には、応仁の乱で社殿が焼失するも、勧進によって復興。江戸時代には、商人たちの信仰を集め、鳥居の奉納が盛んになり、千本鳥居が形成されました。

明治時代以降は、神仏分離令や近代社格制度の施行を経て、現在のような姿となりました。戦後には宗教法人化し、神社本庁には属さず、独立した単立宗教法人として運営されています。

境内と稲荷山：

伏見稲荷大社の境内は、稲荷山の麓に広がっています。表参道から本殿、千本鳥居へと続く参道は、多くの参拝者で賑わいます。本殿をはじめ、楼門、外拝殿などの社殿は、重要文化財に指定されています。

稲荷山は神体山であり、山頂には奥社が鎮座しています。山中には、信者によって奉納された無数の鳥居が立ち並び、特に千本鳥居は圧巻の光景です。また、山中には多くの「お塚」と呼ばれる小さな祠があり、「お塚信仰」として現在も人々の信仰を集めています。

アクセスと観光：

伏見稲荷大社は、JR奈良線稲荷駅、京阪本線伏見稲荷駅などからアクセスできます。年間を通して多くの参拝者、特に近年は外国人観光客も多く訪れています。拝観料は無料ですが、お守りなどの授与所は時間限定で営業しています。

まとめ：

伏見稲荷大社は、長い歴史と深い信仰に支えられた、日本を代表する神社のひとつです。朱色の鳥居が連なる千本鳥居や、神体山である稲荷山は、多くの観光客を魅了する観光スポットとなっています。その歴史と信仰、そして壮大な景観は、訪れる人々に深い感動を与えます。

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