元禄丁銀(げんろくちょうぎん)は、
1695年(
元禄8年)に鋳造が開始され、同年11月3日より通用開始された
江戸幕府の
秤量貨幣です。これは、
慶長丁銀に次ぐ2番目に発行された
丁銀であり、
元禄豆板
銀と合わせて
元禄銀、または元字
銀とも呼ばれます。
表面には大黒像と「常是」の文字、そして
両端に「元」の極印が打たれています。また、
祝儀用として12面の大黒像極印が打たれた「十二面大黒
丁銀」も存在します。
発行の背景
江戸時代初期、
石見銀山をはじめとする各地の
銀山は最盛期を迎え、日本は世界有数の
銀産出国でした。しかし、大量の
銀が海外へ流出したことや、国内の産
銀量の減少、幕府の財政支出の増加などにより、
貨幣不足が深刻化しました。特に、
寛文から
元禄年間にかけて諸藩が発行する
銀札の増加や、大坂での信用手形の発行が顕著になり、
通貨供給の必要性が高まっていました。
このような状況の中、幕府は勘定吟味役の
荻原重秀の提案により、
貨幣の
金銀含有量を下げて
通貨量を増やす「
貨幣吹替え」を実施しました。これにより、
元禄8年9月15日から
元禄丁銀の鋳造が開始されました。
元禄の
貨幣吹替えでは、旧
銀(
慶長銀)を回収し、差
銅を加えて新
銀(
元禄銀)を鋳造しました。当初、旧
銀は2%増歩で引き換えられましたが、回収が滞ったため、1.5%に引き下げられました。この吹替えは、幕府の財政建て直しが主な目的であり、
貨幣鋳造の改鋳利益を得るために行われました。
貨幣吹替えは、本郷霊雲寺近くの吹所で行われましたが、火災により中断され、その後、
金座および
銀座は京橋や
京都両替町に復帰しました。地
金は主に旧
貨幣の回収によってまかなわれましたが、
豊臣氏や将軍家の納戸
金銀も使用されました。また、
足尾銅山をはじめとする
銅山の産出増加は、
元禄吹替えの主要原料を供給することにもなりました。
しかし、新旧の
金銀が等価通用とされたため、良質の
慶長金銀が退蔵され、旧
銀の回収は進みませんでした。また、
銀の品位低下率が
金よりも低かったため、
市場で
金が敬遠され、
丁銀が払底するという問題も発生しました。
その後の影響
幕府は
慶長銀の通用停止を決定しましたが、依然として回収は進まず、退蔵する者が多かったため、通用停止期限を延期せざるを得ませんでした。結果、
元禄銀の鋳造量は
慶長銀の3分の1程度に留まりました。
元禄小判の
金含有量が
慶長小判の約3分の2であったのに対し、
元禄丁銀の
銀含有量は
慶長丁銀の約5分の4でした。これは、当時の
銀相場が下落していたことに対する措置であり、
元禄金銀発行後には
銀相場が高騰し、再び
金一
両=
銀五十
匁前後になりました。
元禄の吹替え以降、
通貨の統一が進み、公鋳の
丁銀が全国に流通するようになりました。
元禄9年には「古
金銀灰吹
銀停止令」が布告され、地方の領国
貨幣は姿を消し、秤量
銀貨の統一が達成されました。
正徳4年に良質の正徳
銀が鋳造された後も、しばらくは旧
貨幣との混在流通が続きましたが、享保7年末に二ツ宝
銀、
永字
銀、三ツ宝
銀、四ツ宝
銀と共に通用停止となりました。
元禄豆板
銀は、
元禄丁銀と同品位の豆板
銀で、大黒像や「常是」の文字を中心に「元」の字が廻り配列された極印が特徴です。また、「群元」や「大字元」など、様々な極印のものが存在します。
元禄銀の規定品位は、
銀64%、
銅36%です。
銀座の鋳造手数料を考慮すると、
慶長丁銀の純
銀量に対して約70%の価値であるとされました。
分析結果と鋳造量
明治時代に造幣局が行った
分析では、
元禄銀の成分は
金0.14%、
銀64.60%、雑分35.26%とされています。雑分は主に
銅ですが、少量の
鉛なども含まれています。
元禄丁銀と
元禄豆板
銀の合計鋳造量は、約40万
貫(約1514
トン)とされています。幕府は
貨幣吹替えで約6万
貫の出目を得ましたが、その後の災害により、利益は消尽しました。
まとめ
元禄丁銀は、
江戸時代の
貨幣制度において重要な役割を果たしました。財政難を打開するために発行された
貨幣であり、その発行は当時の経済情勢や幕府の政策を反映するものでした。また、
貨幣の統一を促進する一因となり、その後の
貨幣制度に大きな影響を与えました。