八極拳

八極拳

八極拳は、清代に中国河北省滄州の孟村で発祥したとされる中国武術です。開門八極拳や半歩拳法などの別名も持ちます。

その名前は、「八極」、つまり八方の極遠にまで達する威力で敵の防御を打ち破るという理念に由来します。一瞬の内に繰り出される激しい技が特徴で、中国拳法の中でも屈指の破壊力を誇ります。

特徴

八極拳は、非常に近い間合いでの戦闘を得意とします。その様子は「陸の船」と形容されるほど、隙のない歩法と手技で敵のガードを崩し、強力な一撃を打ち込みます。

突きや掌打に加え、肘打ちや肩や背中を使った体当たりのような攻撃も重視されます。独特の震脚（足を踏み鳴らす動作）を伴う重心移動や、急激な体勢の展開が、主な攻撃力（勁力）の源となります。

比較的遠い間合いでの戦闘は不得手であるため、劈掛拳や蟷螂拳など、他の武術と併せて学ぶことで、技の幅を広げる流派も存在します。

八極拳の学習者は、まず馬歩椿歩などの基本功と、八極小架（小八極）という型で基礎を築きます。熟練した後には、八極拳（大八極）、六大開拳、八大招式などの型で実戦的な技術を習得します。流派によっては、金剛八式、四郎寬、八極連環、八極双軌、八陣拳などの型も学びます。

八極拳は、花招（見せかけの技）が一切なく、質実剛健で無駄がありません。簡潔な動作の中に、敵を倒すための明確な意図が込められています。美しさよりも実用性を追求した武術と言えるでしょう。

歴史

八極拳の起源には諸説ありますが、確かなのは18世紀に河北省滄州孟村の呉鐘が、この拳技を授かったことに始まります。呉鐘は勇敢で文武両道に秀でていたと伝えられています。また、呉鐘の娘である呉栄が孟村に広めたという説もあります。

呉鐘が拳技を授かった経緯については、以下の二つの説が有力です。

癩（らい）という道士からの伝授: 呉鐘が癩と名乗る遊方の道士から拳技を学び、その後、癩の弟子を名乗る癖（へき）という道士が呉家を訪れ、大槍法と八極秘訣を授けたという説。
張岳山という僧からの伝授: 河南省焦作県の岳山寺の僧、張岳山が還俗して遊歴中に、山東省慶雲県後庄科村に住んでいた呉鐘に八極拳と六合大槍法を伝授したという説。

いずれの説でも、六合大槍は八極拳と併せて伝承されており、現在でも重要な武器術として用いられています。

八極拳の古名は、巴子拳（Bǎzi quán）といい、これは五指の第二関節を折り曲げて握る拳の形に由来するとされます。この拳の形が、農具の鍬（鈀子）に似ていることから名付けられたという説もあります。巴子拳は、戚継光の「紀效新書」にも記述が見られ、八極拳の源流であるとも考えられています。

当初、孟村の回族を中心に伝えられていた八極拳は、後に漢族が多く住む羅疃へも伝わり、二つの系統に分かれて発展しました。中国全土への普及のきっかけとなったのは、南京中央国術館が団体訓練用の八極拳教材を制定したことです。これにより、八極拳の知名度は高まり、広く普及していきました。

団体訓練用八極拳は、集団での練習を容易にするために套路を改変したもので、小小八極（八極架）と名付けられました。これは、八極小架を学ぶ前の段階で練習されるものであり、八極拳を基にしていますが、技法はより簡素で、対打に特化しています。後に、軍隊でも採用され、軍隊用八極拳とも呼ばれました。

日本においては、武術研究家の松田隆智が著書で八極拳を紹介したことで、広く知られるようになりました。当初は台湾に伝えられた武壇系の八極拳が紹介されましたが、その後、様々な系統が日本に導入されています。また、在日華僑の武術家、張世忠も以前から八極拳の指導を行っていました。

羅疃出身の李書文と孟村出身の馬英図は、八極拳の代表的な伝承者として知られています。李書文は比武（決闘）を好み、その強さから多くの伝説が生まれました。

近年では、八極拳のルーツであるとして、「少林寺八極拳」を名乗る門派も現れていますが、その内容は普及した小硬架を模倣したものが多いようです。

李書文と李瑞東の交流により、少林拳の秘技である金剛八式が八極拳に取り入れられたという説もあります。金剛八式は、少林金剛拳という型から抜き出された技で構成されており、その動作には八極拳との類似点が見られます。

武壇八極拳では奥伝の八大式が金剛八式であり、強式八極拳でも奥伝として伝えられています。

ラストエンペラー溥儀の侍従武官であった霍殿閣（李書文の弟子）や、蒋介石の侍衛隊教官であった劉雲樵など、八極拳の実用性の高さを示す逸話も多く残されています。

メディアにおける取扱い

日本では、八極拳は漫画やゲームなどのメディアで取り上げられる機会が多い武術です。

漫画『男組』では、主人公が八極拳の使い手に苦戦し、後に自らも八極拳を習得して敵を倒すという展開が描かれています。また、漫画『拳児』では、主人公が八極拳の修行者であり、その練習や実戦の様子が詳細に描かれ、八極拳の特徴が広く知られるきっかけとなりました。これらの作品には、松田隆智が協力または原作者として関わっています。

これらの漫画の影響を受け、ゲーム業界でも八極拳を取り入れた作品が数多く登場しました。中でも、セガの『バーチャファイター』の主人公、結城晶は、八極拳を使うキャラクターとして高い人気を誇っています。

スクウェアの『エアガイツ』には、実在の武術家である李書文が登場するなど、八極拳の人気ぶりが窺えます。

その他、機動戦士ガンダムSEED ASTRAYやFateシリーズなど、様々な作品で八極拳をモチーフにした技やキャラクターが登場しています。

メディアへの露出が増加したことで、日本国内でも八極拳を学ぶ人が増え、練習会や道場の数も増加傾向にあります。

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