内覧

内覧：天皇の文書を先に見る役職とその歴史的役割

はじめに

「内覧」とは、天皇に提出される文書や天皇が裁可する文書などを事前に閲覧する権限、またはその役職を指します。現代では、商品展示会などを一般公開前に特定の人々に見せる機会を指す場合もあります。しかし、本記事では歴史的な文脈、特に中世日本の政治における内覧の役割に焦点を当てて解説します。

中世における内覧の権限

中世において、内覧の権限は関白の権力の重要な部分を構成していました。関白が天皇や院（上皇や法皇）の意向に反する決定を下すことを防ぐ、あるいは関白の権力を牽制するための手段として機能した面もあります。関白と天皇や院との血縁関係が薄かったり、関白の朝廷内での影響力が弱かったりする場合、内覧の権限は限定的なものとなりました。一方、摂政は天皇が未成年の場合に設置され、内覧の権限に加え、天皇の大権を代行する広範な権限を有していました。

時代が下るにつれて、摂政・関白以外の公卿、例えば左大臣、右大臣、内大臣、あるいは納言級の官位にまで内覧の宣旨が下されるようになりました。五摂家時代には、摂関経験者に内覧の地位を与え、現職の摂関とともに政務に参与させる例も見られました。さらに、摂政や関白に対して、通常の職務に加えて別途内覧の宣旨を与えることも行われました。幕末には、現職の関白でありながら内覧の職権を一時停止された九条尚忠のような例もあります。これは、政治状況の変化や権力闘争を反映していると言えるでしょう。

歴史的な事例

摂政・関白以外の者が内覧に任じられた例をいくつか見てみましょう。

醍醐天皇の時代: 摂政・関白が置かれず、藤原時平と菅原道真が内覧に任じられました。これは、両者の政治力と影響力を示すものです。
冷泉[[天皇]]の時代: 摂政藤原伊尹の死去後、弟の藤原兼通が関白に就任することになりましたが、当時の官位が中納言であったため関白就任の要件を満たしていませんでした。そこで、一旦内覧・内大臣に任じられ、その後内大臣の資格を得てから関白に任じられました。これは、関白就任に必要な資格要件と内覧の役割の関係を示す好例です。
一条[[天皇]]の時代: 関白藤原道隆の重態により、嫡男の伊周が道隆の回復までの間、内覧に任じられました。しかし、道隆の死後、伊周の内覧の職務も停止されました。その後、道隆の後継を巡って弟の藤原道長と伊周が争う中、一条[[天皇]]は道長を内覧として決定を先送りにしました。道長は関白就任を望まず、20年間に渡り「内覧左大臣」として最高権力の地位にあり続けました。この期間、摂関不在の状態が続きました。
堀河[[天皇]]の時代: 関白藤原師通の死去後、嫡男の忠実は権大納言であったため関白の資格がなく、内覧に任じられました。翌年右大臣に昇進し、さらに5年後に関白となりました。
近衛天皇の時代: 摂政藤原忠通が父忠実の怒りを買って藤氏長者の座を弟の頼長に奪われた際、忠実から天皇に対して忠通の関白解任が求められました。しかし、鳥羽法皇の介入により忠通の関白は留任され、頼長にも内覧の宣旨が下されました。これは、関白と内覧が同時に存在した、極めて異例なケースです。しかし、鳥羽法皇も忠実の介入には不快感を抱いており、近衛天皇の急死後、頼長は内覧から解任され、後に保元の乱の一因となりました。
南北朝時代: 近衛経忠は北朝の関白でしたが、南朝に亡命しました。後醍醐天皇は摂政・関白を置く方針ではありませんでしたが、経忠の忠節を賞賛し、特別に内覧に任じました。

結論

内覧は、単なる文書閲覧の役職にとどまらず、日本の歴史において、特に中世政治において重要な役割を果たしました。天皇の意思決定への関与、摂関の権力への牽制、政治的駆け引きなど、様々な側面で内覧の権限が活用され、その歴史は複雑で多様です。これらの事例から、内覧の権限が、政治状況や権力構造を反映する重要な指標であったことが分かります。また、内覧の任命・解任は、しばしば政治的思惑や権力闘争と深く関わっていたことも明らかです。

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