創傷被覆材

創傷被覆材（ドレッシング材）とは

創傷被覆材、またはドレッシング材は、創傷、熱傷、褥瘡などの損傷部位を覆い、保護する目的で使用される素材です。かつてはガーゼが主流でしたが、近年では湿潤療法に基づいた、より効果的な近代的なドレッシング材が開発されています。

定義

「ドレッシング」という言葉は、英語の「dressing」に由来し、「覆う」「包む」という意味を持ちます。しかし、日本語では単に「包帯」と混同されることもあります。日本熱傷学会では、dressingを「包帯（法）、被覆材」と訳しており、創傷被覆材はガーゼを含む広い意味で使われる一方、ドレッシング材は湿潤環境を作るものを指すなど、定義は文脈によって異なります。

種類

理想的な創傷被覆材は、以下の特徴を持つと考えられています。

湿潤環境の提供・維持
表皮の移動性の確保
適切な保温性
治癒の促進
ガス交換が可能
細菌感染の防御
創傷への固着防止、除去の容易さ

これらの特徴を満たすために、様々な素材が用いられています。

近代的なドレッシング材

半透過性フィルム: ポリウレタン製で、浅い傷の上皮化を促進します。水蒸気は通しますが、細菌は通しません。
ハイドロコロイド: 水蒸気を透過し、細菌を通さないため、軽度から中等度の滲出液を伴う創傷に適しています。痛みがないため、小児にも推奨されます。
ハイドロゲル: 水分を多く含み、湿った環境に適しています。乾燥した創傷にも使えますが、感染や重度の滲出液には不向きです。
アルギン酸塩: 海藻由来の素材で、滲出液や血液を吸収し、保護膜を作ります。中程度から重度の滲出液に対応しますが、乾燥した創傷への効果は不明です。

その他の素材

ガーゼ: 古典的な被覆材ですが、傷口に固着しやすく、湿潤環境を維持できないため、近年では使用頻度が減っています。
ハチミツ: 殺菌効果があり、痛みを和らげます。抗生物質耐性菌にも有効で、傷に直接塗ったり、ガーゼに浸して使用します。
食品用ラップ: 安価ですが、吸収性が低く、ずれやすいため、こまめな交換が必要です。

補となる素材

セラミド含有ドレッシング剤: 皮膚バリア機能を高め、褥瘡予防に役立つ可能性があります。
テープなどの貼り付け剤: 皮膚の保湿性を損なう可能性があり、注意が必要です。

抗菌性

近年、抗生物質の過剰使用による耐性菌の増加が問題となっています。そのため、精油やハチミツ、金属ナノ粒子などの抗菌性素材が研究され、創傷被覆材に組み込まれています。ただし、銀イオンは正常細胞への毒性があるため、注意が必要です。

有効性

英国国立医療技術評価機構（NICE）の調査によると、ガーゼは日常的な使用は推奨されていませんが、新しいドレッシング材については、まだ十分な証拠がありません。そのため、創傷の状態に応じて適切な素材を選ぶ必要があります。また、抗菌性ドレッシング材は、感染の兆候がある場合に限定して使用することが推奨されています。

スルファジアジン銀（SSD）を含むドレッシング材

複数の研究で、SSDを含むドレッシング材は、治癒期間が長くなる可能性があると指摘されています。特に、熱傷の治療においては、ハイドロゲルの方が有効であるとの報告があります。

ハチミツ・ドレッシング

ハチミツ・ドレッシングは、スルファジアジン銀ドレッシングよりも良好な治療結果を示すとする研究があります。

歴史

古代: ハチミツは、古代ギリシャやエジプトなど、様々な文明で傷の治療に使われていました。
1920年: 救急絆創膏「バンドエイド」が誕生しました。
1881年: アルギン酸塩が海藻から発見され、創傷被覆材として使われるようになりました。
1980年代: ハイドロコロイドやアルギン酸塩などの近代的なドレッシング材が開発されました。
2000年代: ハイドロコロイド製の「バンドエイドキズパワーパッド」など、様々な商品が販売されるようになりました。

伝統医療と現代医学素材

卵殻膜: 民間療法で使われることがあります。
ワセリン: 傷の保護や湿潤療法に使われます。
ガマの油: ワセリンを含みます。
ゼオライト: 止血効果がありますが、熱傷のリスクもあります。
カオリナイト: 止血剤として軍事利用されています。
珪藻土: 創傷被覆材として利用されています。
マツの花粉、皮、脂: 古代から止血や傷の保護に使われてきました。
真珠粉: 古代から傷や肌に良いとされてきましたが、有害であるという批判もあります。
クモの網: 古代ギリシャから傷口に使われてきました。

出典

W・J・ビショップ『創傷ドレッシングの歴史』時空出版、2009年
穴沢貞夫、倉本秋『ドレッシング―新しい創傷管理』（改訂版）へるす出版、2005年

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