吉祥天

吉祥天：繁栄と幸福をもたらす女神

吉祥天は、仏教における天部の一尊であり、多くの信仰を集める尊い女神です。その起源はヒンドゥー教の女神ラクシュミーに遡り、インドから仏教と共に伝来しました。功徳天、宝蔵天女といった異名でも知られ、幸福、美、富をもたらす神として広く信仰されています。

ヒンドゥー教では、ヴィシュヌ神の妃であり、愛神カーマの母として崇められています。一方、仏教では、父を徳叉迦、母を鬼子母神、夫を毘沙門天とする系譜が伝えられています。妹には黒闇天がいるとされています。毘沙門天の脇侍として、善膩師童子と共に祀られることも多く、その神格は多様な側面を持っています。

吉祥天は、古くから帝釈天や大自在天と共に仏教に取り入れられ、広く信仰されました。時代が下るにつれて、弁才天と混同されることも多くなりましたが、それぞれの神格は異なっています。吉祥天は北方、毘沙門天の居所を住所とします。密教経典『大吉祥天女十二契一百八名無垢大乗経』には、未来において成仏し、吉祥摩尼宝生如来となることが説かれています。

吉祥という言葉が示す通り、吉祥天は繁栄と幸運を象徴する女神です。金光明経には、前科に対する悔い改めの念（吉祥悔過）の記述があり、五穀豊穣をもたらす神としても崇められています。その美しさは比類なく、美女の代名詞として人々の尊敬を集めてきました。

日本においては、天河大弁財天社の創建に関わった天武天皇が、天河の上空で舞う吉祥天の姿を吉祥のしるしと捉えたという伝承があります。役行者と共に、伊勢神宮内宮に祀られる天照坐皇大御神荒御魂瀬織津姫を天の安河の日輪弁財天として祀った際に、吉祥天が五回振袖を振ったことが、宮中の慶事の度に催される五節の舞の起源とされています。

現在でも、神社において信仰の対象とされている地域があり、埼玉県久喜市などでは、七福神に加え吉祥天を加えた八福神として信仰されています。また、吉祥院天満宮では、菅原清公卿、菅原是善公、伝教大師、孔子と共に祀られています。これは、菅原道真公の幼名が吉祥丸であったこと、道真の祖父である清公の遣唐使霊験譚以降、菅原家が代々吉祥天を信仰していたこと、そして道真の正室島田宣来子と習合したとされることなどに由来しています。

このように、吉祥天は仏教、ヒンドゥー教、そして日本の神道など、多様な宗教文化において重要な役割を果たし、人々の信仰を集め続けてきた女神です。その歴史と神格、そして日本における信仰の広がりは、現代においても人々に深い感銘を与え続けています。

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