哀しみのベラドンナ

哀しみのベラドンナ

『哀しみのベラドンナ』は1973年6月30日に公開された劇場用アニメーション映画で、虫プロダクションが制作した。原作はジュール・ミシュレの『魔女』で、映画のタイトルはフランス語の「la sorcière」を含んでいる。北米では『Belladonna of Sadness』という名前でも知られ、成人向けアニメーションの中でも特異な作品としての地位を確立している。

制作の経緯

本作は、前作『千夜一夜物語』や『クレオパトラ』などの成功を受けて制作されたが、虫プロダクションの内部事情が複雑化していたため、制作は難航した。日本ヘラルド映画は虫プロに新たな大人向けアニメ制作を再度依頼したものの、山本暎一監督が退社しており、役員は改めて彼に制作の依頼を行った。

本作は娯楽性重視の先行作品とは異なり、文芸性を追求したストーリーと耽美的な作画スタイルが特徴である。本作では静止画的な表現と心象風景の動きを組み合わせた独自の演出が見られる。また、作画はイラストレーターの深井国によるもので、少人数のスタッフによる精緻な作業が施された。

ストーリー概要

作品の舞台は、中世フランスの田舎の村で、若い農夫ジャンとその妻ジャンヌの物語である。結婚式を挙げたものの、貧しいジャンは領主への貢ぎ物を捧げられず、その結果、奥さんのジャンヌは悪徳な領主に処女を奪われる。傷ついた彼女が帰ってくると、悪魔が現れ、彼女はジャンを救うために悪魔との契約を結ぶ。この契約により、ジャンヌの運命は大きく変化していく。

次第に村の税金を納められるようになったジャンも、税取り立て役人となるが、彼は他の農民たちを苦しめ、最終的には領主にひどい仕打ちを受けてしまう。ジャンヌは村で魔性を帯びた存在となり、彼女の存在が村人たちを引き寄せ、夜毎のサバトが始まるが、領主からの苛烈な迫害に直面することになる。ジャンヌの葛藤と運命の悲劇が描かれ、最後は悲痛な結末を迎える。

評価と影響

上映後、本作は期待とは裏腹に、実際の興行成績は苦戦したものの、国内外の映画祭で高い評価を受けた。その美術感受性と独特の映像表現は、特にアート映画ファンに支持されている。ベルリン映画祭での上映時には、その美しいビジュアルが称賛され、多くの映画専門家からの評価も得た。特に、アート的な要素の強い作風は、さまざまな美術スタイルが融合したものであり、観る者に強い印象を与えた。

一部メディアでは、虫プロダクションの経営困難について言及され、本作が一因となったとの報道もあったが、その実態は複雑である。作品のアート的価値は、多くの批評家や観客によって今でも評価され続けており、2015年からは北米での再公開や、2016年には台湾での特別上映が行われるなど、以来、名作としての地位が確立されている。

所属スタッフ

本作のスタッフは豪華であり、企画構成・監督は山本暎一、原作はジュール・ミシュレ、脚本は福田善之が手掛けた。また、美術には深井国が関与し、アニメーションの作画監督には杉井ギサブロー、および多くの著名なアニメーターが参加している。さらに、音楽は佐藤允彦が担当し、声優陣には長山藍子、中山千夏、仲代達矢などの名優が揃った。

まとめ

『哀しみのベラドンナ』は、ただのアニメ映画にとどまらず、アートとしての側面や文学的な要素を併せ持つ作品である。激しいテーマと独自の表現スタイルが際立っており、今なお多くのファンと批評家の心を捉えて離さない。

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