太陽虫

太陽虫（Heliozoa）

太陽虫（たいようちゅう）は、細胞から放射状に多数の針状の仮足（軸足）を伸ばす、ほぼ球形のアメーバ様原生生物の総称です。その姿が太陽のように見えることからこの名が付けられました。主に淡水環境で見られますが、海水中からも発見されます。同じく放射状の仮足を持つ放散虫に似ていますが、細胞質を内外に分ける中心嚢がない点や、複雑で硬い骨格を持たない点で区別されます。ただし、一部の太陽虫は単純な鱗片や棘のような構造を作ります。

形態と生態

太陽虫は、活発に動き回ることは少なく、主に軸足を使って周囲を漂う餌を捕らえます。軸足は細い針のような形状で、その表面には細胞質の流れが見られます。軸足の芯には、微小管が束になって通っており、これを軸足と呼びます。この微小管束の配置は、規則的なものから複雑な幾何学的配置まで様々です。軸足に触れた餌は粘着し、軸足の収縮や細胞質の流れによって細胞本体に引き寄せられ、食胞として取り込まれます。軸足上には「放出体」と呼ばれる細胞小器官があり、これは捕食時に内容物を放出し、餌の動きを止めたり付着させたりするのに役立つと考えられています。

ゆっくりとした軸足の動き以外に、通常活発な運動は見られません。種類によっては、表面に珪酸や有機物でできた殻を持ち、殻の隙間や穴から軸足を出しています。また、殻に柄があって、基質に付着して生活する固着性の種もいます。多くは水中の物体に寄り添うように静止しています。

生殖

太陽虫の無性生殖は、主に細胞全体がくびれて二つに分かれる単純な分裂によって行われます。一部の種では、分裂によって生じた細胞の一つが鞭毛を持った遊泳細胞となり、移動した後に太陽虫の形に戻るという繁殖方法も知られています。有性生殖については、一部の種で確認されており、一つの細胞が減数分裂によって二つの配偶子に分かれた後、それらが再び融合するという、遺伝子再編成のような独特な現象（ペドガミー）が観察されています。

分類学的な変遷

過去、太陽虫は形態的な類似性に基づいて一つの分類群としてまとめられていました。しかし、電子顕微鏡による微細構造の観察や、DNA配列に基づく分子系統解析が進んだ結果、形態的に似ていても、互いに遠縁な異なる生物グループが「太陽虫」という総称として含まれていることが明らかになりました。現在では、伝統的な太陽虫のグループのほとんどが解体され、ストラメノパイル類、ケルコゾア門、有中心粒類など、全く別の大きな系統群の中に分散して位置づけられています。

以下に、伝統的に太陽虫とされてきた主なグループと、現在の分類学的な位置づけの一部を示します。

主な太陽虫形原生生物のグループ

ストラメノパイル類に属するもの

無殻太陽虫（Actinophyrida）: 代表的な淡水産の太陽虫で、殻を持たないกลุ่มです。細胞の中央に核があり、外層には浮遊を助ける液胞があります。軸足には、精巧な二重渦巻き配列の微小管束が通っています。タイヨウチュウ（Actinophrys）やオオタイヨウチュウ（Actinosphaerium）などが含まれます。条件が悪化するとシストを形成し、その中でペドガミーによる遺伝子再編成を行うことがあります。鞭毛を持ちませんが、分子系統解析によりストラメノパイル類に位置づけられています。
キリオフリス（Ciliophrys）: 太陽虫のような軸足を持ちながら、鞭毛も一本持つ「太陽鞭毛虫」です。淡水、海水に生息します。物理的な刺激を受けると、太陽虫形から鞭毛を持った遊泳形に変形し、鞭毛を使って特徴的な遊泳をします。軸足や鞭毛の構造、遊泳様式はストラメノパイル類に典型的です。

ケルコゾア門に属するもの

ディモルファ類（Dimorphida）: 鞭毛を持つ太陽鞭毛虫のグループです。淡水産で、2本または4本の鞭毛を持ちます。軸足を通る微小管は細胞中央の核から伸びており、その配列に特徴があります。ケルコゾア門に属すると考えられています。
有殻太陽虫（Desmothoracida）: 有機質の殻に包まれた太陽虫です。主に淡水で固着性生活をします。殻には多数の穴があり、そこから軸足を出して餌を捕らえます。増殖時には、2本の鞭毛を持った遊泳細胞を放出します。分子系統解析によりケルコゾア門に位置づけられています。
ギムノスファエラ類（gymnosphaerids）: 主に海産の太陽虫です。でこぼこした球形から軸足を放射状に伸ばします。軸足の微小管束は篭目格子状です。自由生活性のものから、付着性のもの、柄を持つものまで多様な形態と生活様式を示します。ケルコゾア門に含められる可能性が示唆されています。

いずれにも属さないもの（または位置不確定）

有中心粒類（Centrohelida）: 太陽虫形の大きなグループで、淡水・海水に生息します。細胞の中心にある「中心粒」と呼ばれる構造を基点として、ややゆがんだ篭目格子状の微小管束が軸足を通っています。多くの種が、珪酸質などの鱗片や棘をまとった外被を持ちます。分類学的な位置は確定しておらず、分子系統解析でもその系統関係は不明な点が多く残されています。

その他の太陽虫に似た生物

かつて太陽虫に分類されていたものの、現在では全く別のグループとされている例もあります。

スチコロンケ（Sticholonche）: 特異な形態を持つ海産プランクトンです。多数の軸足を持ちますが、これらは主に浮力や移動に使われます。伝統的には太陽虫とされてきましたが、現在では放散虫に近縁と考えられています。
ヌクレアリア類（Nucleariida）: 糸状仮足を持つアメーバ様生物のグループです。土壌や淡水に生息し、動物や真菌に近縁なことが分子解析で示されています。このグループに含まれる一部の属は、かつて鱗片を持つ太陽虫として扱われていましたが、微小管が通った軸足を持たないため、現在の太陽虫の定義からは外れています。

このように、「太陽虫」という言葉は、特定の単系統群ではなく、形態的に似た複数の異なる系統の原生生物に対する総称として用いられています。最新の研究によって、これらの生物の進化的な関係が徐々に明らかになってきています。

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