ケルコゾア
ケルコゾア（Cercozoa）は、真核生物の中で「プロテスト（原生生物）」と呼ばれるグループに属する、非常に多様性に富んだ生物の集まりです。
この名前はギリシャ語の「尾」（cercos）と「動物」（zoon）に由来すると考えられています。ケルコゾアの多くの種は、細長い糸のような形状の仮足、すなわち「糸状仮足（フィロポディア）」を発達させて、移動したり周囲の粒子や他の微生物を捕らえて摂食したりします。アメーバのような姿のものもいれば、鞭毛を使って水中を泳ぎ回るものもいます。
ケルコゾアは形態的に共通する明確な特徴が少ないため、かつては様々な原生生物のグループに散らばって分類されていました。しかし、近年の遺伝子レベルでの詳細な分子系統解析によって、これらの生物が単一の大きなまとまり（単系統群）を形成していることが強く支持され、現在では門の階級として扱われることが一般的です。多くの原生生物に見られる、決まった場所にある「真の細胞口」を持たないことも、ケルコゾアの共通する特徴の一つです。餌は細胞表面の様々な場所から取り込まれます。
ケルコゾアには、陸上や水中の様々な環境に生息するユニークな生物が含まれています。
最もよく知られているグループの一つにユーグリファ（ウロコカムリ）類があります。これらは珪酸質の微細な鱗片が集合してできた、精巧な殻を持つアメーバ様生物です。殻の開口部から糸状仮足を伸ばして餌を捕獲します。土壌や富栄養化が進んだ水域、あるいは水生植物の表面などで普通に見られ、特に汚水処理施設の活性汚泥中では重要な微生物相の一員として、水の浄化に関与しています。ユーグリファ類に似ていますが、有機物でできた殻を持つテクトフィロシド類や、数ミリメートルに達する大型の球状有機質殻を持つグロミアなどもケルコゾアに含まれます。かつて、これらの糸状仮足を持つ有殻アメーバはまとめて「有殻糸状根足虫」と呼ばれていましたが、現在の分類では単系統ではないと考えられています。
ケルコゾアの中で、細胞内共生の研究で特に注目されているのがクロララクニオン藻です。これらは網状の仮足で群体を形成するアメーバ様生物ですが、緑藻類を取り込んで、その細胞由来の葉緑体を自身の細胞内に保持しています（二次共生）。この葉緑体は四枚の膜に囲まれており、内部には取り込まれた緑藻の核の名残である「ヌクレオモルフ」という小さな構造が存在します。ヌクレオモルフは、かつて独立した生物であった共生体が、宿主細胞内で細胞小器官へと進化していく過程を示す貴重な証拠であり、葉緑体の進化や細胞内共生の研究において、クロララクニオン藻は重要なモデル生物となっています。
また、葉緑体を持つケルコゾアとして、ビンカムリ (Paulinella chromatophora) が挙げられます。この生物は形態的にはユーグリファ類に似ていますが、緑色光合成を行う「シアネレ」と呼ばれる独特な細胞内構造を持っています。驚くべきことに、このシアネレはシアノバクテリアが直接細胞内に入り込み、そのまま葉緑体として機能するようになったものです。これは、植物や他の多くの藻類が持つ葉緑体（これらは共通の祖先から一度だけ一次共生で獲得されたと考えられています）とは全く独立に、光合成能力が真核生物の細胞内に取り込まれた事例として知られており、生物進化の歴史において一次共生が複数回、独立して起こりうることを示唆する極めて興味深い生物です。
これらの他にも、土壌環境でよく見られる鞭毛虫のケルコモナス類や、伝統的に「太陽虫」としてまとめられていたグループの一部、具体的には有殻太陽虫類、ディモルファ類、ギムノスファエラ類がケルコゾアに含まれることが明らかになっています。さらに、かつて放散虫に分類されていたファエオダリア類（濃彩類） や、珪酸質の内部骨格を持つ特異なアメーバ様生物であるエブリア類なども、分子情報に基づいてケルコゾアの仲間に位置づけられるようになりました。
ケルコゾアは、原生生物の主要なグループの一つとして「門」の階級が与えられるのが現在の標準的な扱いです。同じく糸状仮足を持つ有孔虫や、美しい珪酸質の骨格を持つ放散虫といったグループと近縁であると考えられており、これらのグループと共にリザリア（Rhizaria） というより大きな分類群を形成すると提唱されています。ただし、リザリアに含まれる範囲や、その中でのケルコゾア、有孔虫、放散虫の正確な系統関係については、現在も活発な研究と議論が進められており、今後の分類体系の見直しにつながる可能性があります。
ケルコゾア内部の分類も階層的であり、いくつかの亜門や綱に分けられています。例えば、フィロサ亜門 (Filosa) には、糸状仮足を持つアメーバ様生物や鞭毛虫が多く含まれ、クロララクニオン藻綱や、ユーグリファ類を含むイムブリカテア綱などが置かれています。一方、エンドミクサ亜門 (Endomyxa) には、植物に寄生するネコブカビ類などが含まれるフィトミクセア綱や、貝類に寄生するアセトスポラ綱などが含まれることがあります。ただし、これらの分類群の系統関係や、一部のグループ（例えば、Endomyxa亜門の一部）が有孔虫により近縁である可能性なども示唆されており、ケルコゾアの分類体系は、常に最新の研究成果に基づいて更新されています。また、伝統的な形態分類に基づく名称の中には、その後の分子情報によって系統的な位置づけが変わったり、複数の系統が含まれることが判明したりしたものも多く存在します。
この名前はギリシャ語の「尾」（cercos）と「動物」（zoon）に由来すると考えられています。ケルコゾアの多くの種は、細長い糸のような形状の仮足、すなわち「糸状仮足（フィロポディア）」を発達させて、移動したり周囲の粒子や他の微生物を捕らえて摂食したりします。アメーバのような姿のものもいれば、鞭毛を使って水中を泳ぎ回るものもいます。
ケルコゾアは形態的に共通する明確な特徴が少ないため、かつては様々な原生生物のグループに散らばって分類されていました。しかし、近年の遺伝子レベルでの詳細な分子系統解析によって、これらの生物が単一の大きなまとまり（単系統群）を形成していることが強く支持され、現在では門の階級として扱われることが一般的です。多くの原生生物に見られる、決まった場所にある「真の細胞口」を持たないことも、ケルコゾアの共通する特徴の一つです。餌は細胞表面の様々な場所から取り込まれます。
多様な顔ぶれ
ケルコゾアには、陸上や水中の様々な環境に生息するユニークな生物が含まれています。
最もよく知られているグループの一つにユーグリファ（ウロコカムリ）類があります。これらは珪酸質の微細な鱗片が集合してできた、精巧な殻を持つアメーバ様生物です。殻の開口部から糸状仮足を伸ばして餌を捕獲します。土壌や富栄養化が進んだ水域、あるいは水生植物の表面などで普通に見られ、特に汚水処理施設の活性汚泥中では重要な微生物相の一員として、水の浄化に関与しています。ユーグリファ類に似ていますが、有機物でできた殻を持つテクトフィロシド類や、数ミリメートルに達する大型の球状有機質殻を持つグロミアなどもケルコゾアに含まれます。かつて、これらの糸状仮足を持つ有殻アメーバはまとめて「有殻糸状根足虫」と呼ばれていましたが、現在の分類では単系統ではないと考えられています。
ケルコゾアの中で、細胞内共生の研究で特に注目されているのがクロララクニオン藻です。これらは網状の仮足で群体を形成するアメーバ様生物ですが、緑藻類を取り込んで、その細胞由来の葉緑体を自身の細胞内に保持しています（二次共生）。この葉緑体は四枚の膜に囲まれており、内部には取り込まれた緑藻の核の名残である「ヌクレオモルフ」という小さな構造が存在します。ヌクレオモルフは、かつて独立した生物であった共生体が、宿主細胞内で細胞小器官へと進化していく過程を示す貴重な証拠であり、葉緑体の進化や細胞内共生の研究において、クロララクニオン藻は重要なモデル生物となっています。
また、葉緑体を持つケルコゾアとして、ビンカムリ (Paulinella chromatophora) が挙げられます。この生物は形態的にはユーグリファ類に似ていますが、緑色光合成を行う「シアネレ」と呼ばれる独特な細胞内構造を持っています。驚くべきことに、このシアネレはシアノバクテリアが直接細胞内に入り込み、そのまま葉緑体として機能するようになったものです。これは、植物や他の多くの藻類が持つ葉緑体（これらは共通の祖先から一度だけ一次共生で獲得されたと考えられています）とは全く独立に、光合成能力が真核生物の細胞内に取り込まれた事例として知られており、生物進化の歴史において一次共生が複数回、独立して起こりうることを示唆する極めて興味深い生物です。
これらの他にも、土壌環境でよく見られる鞭毛虫のケルコモナス類や、伝統的に「太陽虫」としてまとめられていたグループの一部、具体的には有殻太陽虫類、ディモルファ類、ギムノスファエラ類がケルコゾアに含まれることが明らかになっています。さらに、かつて放散虫に分類されていたファエオダリア類（濃彩類） や、珪酸質の内部骨格を持つ特異なアメーバ様生物であるエブリア類なども、分子情報に基づいてケルコゾアの仲間に位置づけられるようになりました。
分類体系における位置
ケルコゾアは、原生生物の主要なグループの一つとして「門」の階級が与えられるのが現在の標準的な扱いです。同じく糸状仮足を持つ有孔虫や、美しい珪酸質の骨格を持つ放散虫といったグループと近縁であると考えられており、これらのグループと共にリザリア（Rhizaria） というより大きな分類群を形成すると提唱されています。ただし、リザリアに含まれる範囲や、その中でのケルコゾア、有孔虫、放散虫の正確な系統関係については、現在も活発な研究と議論が進められており、今後の分類体系の見直しにつながる可能性があります。
ケルコゾア内部の分類も階層的であり、いくつかの亜門や綱に分けられています。例えば、フィロサ亜門 (Filosa) には、糸状仮足を持つアメーバ様生物や鞭毛虫が多く含まれ、クロララクニオン藻綱や、ユーグリファ類を含むイムブリカテア綱などが置かれています。一方、エンドミクサ亜門 (Endomyxa) には、植物に寄生するネコブカビ類などが含まれるフィトミクセア綱や、貝類に寄生するアセトスポラ綱などが含まれることがあります。ただし、これらの分類群の系統関係や、一部のグループ（例えば、Endomyxa亜門の一部）が有孔虫により近縁である可能性なども示唆されており、ケルコゾアの分類体系は、常に最新の研究成果に基づいて更新されています。また、伝統的な形態分類に基づく名称の中には、その後の分子情報によって系統的な位置づけが変わったり、複数の系統が含まれることが判明したりしたものも多く存在します。
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