孔雀明王

孔雀明王について

孔雀明王（くじゃくみょうおう）は、仏教、特に密教において重要な役割を担う明王の一尊です。梵語では「マハーマーユーリー・ヴィディヤー・ラージニー」といい、「偉大な孔雀の智慧の女王」という意味を持ちます。その名の通り、孔雀を象徴とする尊格で、衆生の利益と安寧を願う慈悲深い存在として信仰されています。

孔雀明王の起源と特徴

孔雀明王の起源は、古代インドの女神マハーマーユーリーに遡ります。マハーマーユーリーは、五守護女神の一柱であり、「偉大な孔雀」を意味します。孔雀明王は、一般的に憤怒の相を持つ明王の中では珍しく、菩薩形をしており、慈悲深い表情をしています。一面四臂の姿で描かれることが多く、手に倶縁果、吉祥果、蓮華、そして孔雀の尾を持っています。ただし、京都の仁和寺に伝わる国宝の絵画のように、三面六臂で表されることもあります。

孔雀が毒蛇や害虫を食べることから、孔雀明王は人々の災厄や苦痛を取り除く力を持つと信じられてきました。さらに、孔雀明王は人間の煩悩である三毒（貪り、嗔り、痴行）を喰らい、人々を仏道に導くと解釈されるようになり、除魔の力を持つ仏として、多くの宗派で大護摩の際にその真言が唱えられます。また、雨を予知する能力を持つとされ、祈雨法（雨乞い）にも用いられてきました。

孔雀明王と他の尊格との関連

三十三間堂の解説によれば、孔雀明王が騎乗する孔雀を独立した尊格としたものが、千手観音の眷属である二十八部衆の一尊「金色孔雀王」であるとされています。

孔雀経法

孔雀明王を本尊とする密教の呪法は「孔雀経法」と呼ばれ、真言密教においては鎮護国家の大法として非常に重要視されました。この法は、災厄を払い、国家の安寧を祈るために行われてきました。

経典と真言

孔雀明王に関する主な経典には、『大孔雀明王経』（別名『仏母大孔雀明王経』）があります。渡辺照宏によれば、「仏母明王」とは「明妃」の別訳であり、本来は陀羅尼（女性名詞）であったとされます。孔雀明王の真言は「おん　まゆらきらんてい　そわか」（oṃ mayūrā krānte svāhā）です。

孔雀明王の起源に関する補足

孔雀明王の起源は、毒蛇を食べるクジャクを神格化したものと考えられています。7世紀から8世紀初頭のタイでは、嘴を持つ有翼動物に騎乗する仏陀の三尊像が造られており、このことからもクジャクの神聖視が伺えます。

日本における孔雀明王

日本では、奈良時代ごろから孔雀明王が信仰され始めました。西大寺の金堂に安置されていたという記録も残っています。現存する文化財としては、仁和寺には北宋時代の絵画が、高野山金剛峯寺には快慶作の彫像が伝えられています。

文化財

彫刻

金剛峯寺（高野山霊宝館）像：快慶作、鎌倉時代、重要文化財
正暦寺像：鎌倉時代
聖天堂像：江戸時代

絵画

仁和寺像：北宋時代、国宝
東京国立博物館像：平安時代後期、国宝
法隆寺像：重要文化財
醍醐寺像（密教図像内）：重要文化財
安楽寿院像：重要文化財
智積院像：重要文化財
松尾寺像：重要文化財
サンリツ服部美術館像：重要文化財

まとめ

孔雀明王は、その慈悲深い姿と人々を災厄から守る力で、古くから多くの人々に信仰されてきた仏です。その歴史と文化財は、現代に生きる私たちにも多くのことを教えてくれます。

関連項目

仏の一覧
ヤズィーディー
マラク・ターウース
孔雀王

外部リンク

【収蔵品紹介：仏に関する基礎知識：孔雀明王】 - 高野山霊宝館による解説

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