安楽寿院

安楽寿院：平安時代の歴史と文化を今に伝える伏見の古刹

京都市伏見区竹田に位置する安楽寿院は、真言宗智山派に属する由緒ある寺院です。山号を持たず、本尊は阿弥陀如来。その歴史は平安時代末期、鳥羽離宮の東殿に鳥羽上皇が建立した仏堂にまで遡ります。現在も境内に鳥羽天皇と近衛天皇の陵墓が存在することからも、皇室との深い繋がりを伺い知ることができます。

鳥羽離宮と安楽寿院の深いつながり

安楽寿院周辺は、かつて院政の中心地として栄えた鳥羽離宮の跡地です。白河天皇が応徳3年（1086年）に造営を開始した鳥羽離宮は、桂川と鴨川の合流点という風光明媚な場所に広がり、東西約1.2～1.5km、南北約1kmにも及ぶ広大な敷地を誇っていました。御所や庭園、そして数々の仏堂が建てられ、白河、鳥羽、後白河の三代にわたって院政の舞台となりました。

鳥羽離宮には複数の御所に仏堂が付属しており、南殿の証金剛院、北殿の勝光明院、泉殿の成菩提院、そして東殿の安楽寿院、田中殿の金剛心院などが知られています。時の流れとともに鳥羽離宮の建物はほとんど失われましたが、安楽寿院だけは現代までその法灯を継承し続けています。ただし、現存する建物は近世以降の再建です。

創建と隆盛の時代

保延3年（1137年）、鳥羽上皇が東殿に建立した仏堂が安楽寿院の起源とされます。当初は寺号はなく、単に御堂と呼ばれていましたが、康治2年（1143年）に安楽寿院の名称が文献に初めて登場します。保延5年（1139年）には、藤原家成によって三重塔が建立されました。これは上皇の寿陵として造られたものであり、「本御塔」と呼ばれ、上皇の没後には墓所となりました。現在安楽寿院の本尊である阿弥陀如来像は、この本御塔の本尊であったと推測されています。

その後、美福門院のために別の三重塔（新御塔）も建立されましたが、こちらは近衛天皇の陵墓となりました。安楽寿院には、九体阿弥陀堂や不動堂なども存在し、日本各地から多くの荘園が寄進され、最盛期には莫大な寺領を有していました。これらは安楽寿院領、後に八条院領と呼ばれ、皇室の経済基盤を支える重要な役割を果たしました。

中世以降の変遷

安楽寿院は、永仁4年（1296年）と天文17年（1548年）の火災、そして文禄5年（1596年）の慶長伏見地震といった幾多の災害に見舞われました。創建当時の建物や、鳥羽天皇と近衛天皇の陵墓であった二基の三重塔も失われました。しかし、その後も再建が繰り返され、慶長17年（1612年）には本御塔の仮堂が建てられ、元治元年（1864年）には現在の建物が再建されました。これは現在、宮内庁の管理下にある鳥羽天皇安楽寿院陵です。一方、新御塔は豊臣秀頼によって多宝塔形式で再建され、近衛天皇安楽寿院南陵として宮内庁の管理下にあります。天皇陵墓に多宝塔を用いた例は極めて稀です。

豊臣秀吉から寺領500石の安堵を受け、江戸時代には多くの塔頭を抱える学山として栄えました。幕末には、鳥羽・伏見の戦いの本営ともなった安楽寿院は、数々の歴史的出来事を目撃してきたのです。

境内と文化財

現在の安楽寿院境内には、大師堂、阿弥陀堂（薬師堂）、書院・庫裏など近世以降の建物が建ち並んでいます。本尊を安置する阿弥陀堂よりも大師堂の方が規模が大きく、慶長大地震で倒壊した新御塔の材を用いて建てられたと伝えられています。境内には、豊臣秀頼が再建した鐘楼（一部当時の材が残る）、三如来石仏、五輪塔などがあります。

安楽寿院には数多くの文化財が所蔵されています。重要文化財に指定されている木造阿弥陀如来坐像は、平安時代末期の定朝様を代表する作風で、穏やかな表情が特徴です。他にも、絹本著色普賢菩薩像、絹本著色孔雀明王像、絹本著色阿弥陀二十五菩薩来迎図などが重要文化財に指定されています。また、境内や近辺からは、平安時代末期の石造三尊像なども出土しており、安楽寿院の歴史と文化の深さを物語っています。

安楽寿院は、平安時代末期の歴史、皇室との深いつながり、そして数々の文化財を今に伝える、貴重な歴史的遺産です。拝観を希望される方は、事前に許可を得る必要があります。

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