宮益坂

宮益坂：歴史と現代が交錯する渋谷の坂道

宮益坂は、東京都渋谷区に位置する、渋谷駅から青山通りへと続く坂道です。道玄坂と並び、渋谷を代表する坂として知られています。古くから人々の生活の中心として栄え、現在もその歴史と賑わいを残す一方で、再開発計画による変化も進んでいます。

江戸時代の賑わい：大山街道と町としての発展

江戸時代には、大山街道の最初の茶屋が立ち並ぶなど、活気ある場所でした。金王八幡宮周辺の賑わいに対して「新町（渋谷新町）」と呼ばれ、農家だけでなく、茶屋や酒屋なども多く存在していました。江戸から旅立つ人々にとって、三軒茶屋の一つ手前の休憩地として利用された記録も残っています。

街道の立場としての役割に加え、御嶽神社や千代田稲荷の門前町としての側面も持ち合わせていました。正徳3年（1713年）には町並地となり、町奉行の支配下に入りました。この時、「渋谷宮益町」と呼ばれるようになり、現在の坂の名前の由来にもなっています。

当初は「富士見坂」と呼ばれていましたが、町名が御嶽神社の御岳権現にあやかって「宮益町」に変更されたことに伴い、坂の名前も「宮益坂」と呼ばれるようになりました。「宮」は神社、「益」は御利益を願うという意味合いが込められているとされています。

明治時代中期までは、坂の両側に家が1列に建つだけの小さな町でしたが、小商い、職人、そして飲み屋が軒を連ねる活気あふれる場所でした。坂の下から富士山を望むことができたことから「富士見坂」と呼ばれていましたが、東横デパートの建設によってその景観は失われました。1937年（昭和12年）には、宮益坂に並行して東京高速鉄道渋谷線（現在の東京メトロ銀座線）が開通しました。

近年の再開発と歴史的建造物の行方

2023年4月12日には、東京都市再生プロジェクトの一環として、宮益坂地区の第一種市街地再開発事業が都市計画決定されました。しかし、再開発計画には反対意見も多く、現在も議論が続いています。この計画によって、歴史ある建造物の存続が危ぶまれているため、地域住民による反対運動も展開されています。

宮益坂周辺の神社仏閣

御嶽神社

宮益町の氏神である御嶽神社は、元亀年間に起源を持つと伝えられる神社です。宮益坂の中腹に参道があり、かつては「美竹町」と呼ばれた地域の氏神様でもありました。境内には珍しい日本狼をモチーフにした狛犬が置かれています。しかし、2023年4月12日の都市計画決定により、再開発事業に伴い取り壊されることとなりました。

妙祐寺

かつて宮益坂に存在した妙祐寺は、浄土真宗本願寺派の寺院で、御嶽神社の向かい側に位置していました。弘安9年（1286年）一遍上人が創建したと伝えられ、長い歴史を持つ寺院でしたが、昭和20年の空襲で被災、昭和27年に世田谷区烏山に移転しました。その跡地には「宮益坂ビルディング」が建設され、長くマンションとして利用されていましたが、2016年から建て替え工事が行われ、現在は新しいマンションが建っています。

江戸名所図会と富士見坂

江戸時代の天保年間に編纂された『江戸名所図会』には、宮益坂（富士見坂）について次のように記されています。

「富士見坂。渋谷宮益町より西へ向ひて下る坂をいう。斜めに芙蓉の峰にむかふ故に名とす。相模街道の立場にして、茶店酒亭あり、麓の小川に架せる橋をも富士見橋と名づけたり。相州街道の中、坂の数四十八ありとなり、此の富士見坂は其のはじめなりといへり」

この記述からも、宮益坂が古くから街道の重要な位置を占め、人々の生活の中心であったことが分かります。

宮益坂は、歴史と現代が複雑に絡み合う場所です。再開発計画によって、その姿は大きく変わろうとしていますが、その歴史と文化は、これからも人々の記憶の中に大切に受け継がれていくことでしょう。

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