寒川入道筆記

寒川入道筆記（さむかわにゅうどうひっき）

『寒川入道筆記』は、慶長18年（1613年）に書かれたとされる江戸時代初期の随筆です。作者は寒川入道とされていますが、その人物像は謎に包まれており、松永貞徳が著者であるという説が有力です。

内容

本書は、和歌や俳諧に関する見聞録、笑い話、そして巻末には「譴詰之事」（または「謎詰之事」）と題された109題ものなぞなぞが収録されています。これは、作者が俳諧のネタをストックしておくためのメモとしての役割を果たしていたと考えられています。笑い話は、教養のない「うつけもの」の滑稽な言動を題材にしたものが多く見られます。

なぞなぞには、「親の教訓、叶わず」という問いに対して「子持ち犬」（子が用いない）と答えるような、洒落の利いたものが含まれています。ただし、収録されているなぞなぞの中には、既存の著作からの転載も含まれており、すべてが著者のオリジナルというわけではありません。

著者について

寒川入道という人物に関する記録は存在せず、その正体は不明です。「寒川」の読み方も定かではなく、そもそもこの書名が著者自身によるものなのかどうかも明らかではありません。しかし、本書は古くから松永貞徳の著作として伝えられてきたようです。

『続群書類従』には、『貞徳翁之記』と同じ巻に『寒川入道筆記』が収録されており、宮内庁書陵部の蔵書では両書が合綴されています。鈴木棠三は、本書の内容から著者が細川幽斎や里村紹巴といった連歌作者と親交があり、幽斎に師事していた可能性も指摘し、松永貞徳説を支持しています。

成立年代

本文中に「寛弘元年より慶長十八年まで七百年なり」という記述があることから、本書が慶長18年に成立したことは確実視されています。

研究における意義

『寒川入道筆記』は、笑話本の発生を研究する上で重要な資料とされています。鈴木棠三は、現代のなぞなぞのルーツを探る研究において、本書を様々な角度から分析しています。そして、僧院風の『見聞雑記』、宮廷風の『後奈良院何曾』に対し、『寒川入道筆記』に収録されているなぞなぞは、連歌師風の洒落を中心とした、笑いを追求した発展が見られると評価しています。

三原裕子は、『江戸時代前期の噺本に現れた「ござる」』の中で、前期噺本の代表的な作品の一つとして本書を取り上げ、「ござる」の用例はなく、「ござある」と「ござ候」のみが使用されていると指摘しています。



参考文献
鈴木棠三『なぞの研究 講談社学術文庫492』講談社、1981年4月。ISBN 978-4-06-158492-1。
三原裕子「江戸時代前期の噺本に現れた「ござる」」『論集』第8号、アクセント史資料研究会、2012年12月15日、43-62頁、NAID 40019556794。

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