小乗

小乗（しょうじょう）とは

小乗（हीनयान、Hīnayāna）とは、仏教用語で「小さい乗り物」を意味する言葉です。大乗仏教の立場から、個人の解脱を主眼とする教えを指して、見下す意味合いで使用されました。そのため、小乗という言葉は否定的なニュアンスを含んでいます。

概説

小乗は、全ての人々の救済を目指す大乗仏教（偉大な乗り物）と対比して用いられます。大乗仏教の思想を持つ人々が、菩薩の道を重視し、自らの教えを大乗と呼ぶ一方で、声聞乗と縁覚乗をまとめて小乗と呼びました。この場合の声聞乗は、当時の部派仏教を指していたと考えられています。

語の成立と用法

「小乗」という言葉は、大乗経典の発展史において、「大乗」よりも遅れて成立しました。大乗仏教が興った当初は、対立する既存の伝統仏教を小乗と名指すことはありませんでした。大乗経典が成立する過程で、一部において考案・使用され、その対象も限定的でした。具体的には、説一切有部、もしくはその中の一派のみを小乗と呼んだという説が有力です。重要なのは、「小乗」という言葉は、それを批判された部派仏教自らが使用したものではないという点です。

三枝充悳は、「小乗」という言葉の濫用は特殊なケースであると指摘しています。

現代における使用例

上座部仏教に属するスリランカ分別説部大寺派から発展した南伝仏教を、日本では小乗仏教と呼ぶことがあります。しかし、「小乗」という言葉の成立過程を考慮すると、この呼び方は適切ではありません。

大乗との差異

竹村牧男は、大乗と小乗（部派仏教）の違いについて、以下のように述べています。

小乗（部派仏教）では、人間は釈迦とはかけ離れた存在であり、修行しても及ばないと考える。
大乗仏教では、人間は釈迦と同じ仏になれると考える。
小乗（部派仏教）では、修行の最終目標は阿羅漢である。
大乗仏教では、最終的に仏となることを目標とする。

また、植木雅俊は、小乗は出家至上主義であると指摘しています。

仏典における扱い

初期仏教の仏典である阿含経の漢訳の中では、瞿曇僧伽提婆訳の「増一阿含経」に、小乗という言葉の使用例が1例だけ見られます。

参考文献

中村元・福永光司・田村芳朗・今野達・末木文美士, ed. (2002年10月). "小乗". 岩波 仏教辞典 第二版. 岩波書店.
平岡聡『大乗経典の誕生: 仏伝の再解釈でよみがえるブッダ』筑摩書房〈筑摩選書〉、2015年。
中村元、三枝充悳『バウッダ ［佛教］』小学館〈小学館ライブラリー〉、1996年4月（原著1987年）。ISBN 4-09-460080-9。
竹村牧男『インド仏教の歴史: 「覚り」と「空」』講談社〈講談社学術文庫〉、2004年2月（原著1992年）。ISBN 4-06-159638-1。

関連項目

部派仏教
上座部仏教
大乗仏教
三乗
二乗
一乗

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