岩佐勝重

岩佐勝重：福井藩を彩った絵師の生涯

岩佐勝重は、江戸時代初期に活躍した卓越した絵師です。慶長18年（1613年）頃に、著名な絵師、岩佐又兵衛勝以の嫡男として福井で誕生しました。源兵衛という通称で知られ、後に岩佐以重の父となります。

勝重は幼少期より父から絵画の手ほどきを受け、才能を開花させました。寛永14年（1637年）、父が江戸へ赴いた後も、勝重は福井藩に留まり、17石の知行を得て藩の御抱え絵師として仕えました。同藩には200石の家禄を有する狩野派の御用絵師もいましたが、勝重の地位はそれよりも低かったものの、岩佐派の福井藩における長年の功績と伝統が認められた証と言えるでしょう。

勝重の才能が最も輝いたのは、寛文9年（1669年）の大火で焼失した福井城の再建事業でした。寛文10年（1670年）の再建にあたり、勝重は城内の鶴の間の襖絵を制作しました。金碧輝煌な「群鶴図」は、杉戸に描かれ、その壮麗な様は来訪者を魅了したに違いありません。現在、福井県立美術館が所蔵する「群鶴図屏風」と個人蔵の「鶴・平家物語屏風」は、この襖絵の遺品と考えられています。『越前人物誌』には、この襖絵制作にかかった費用の見積書写しが掲載されており、当時の絵事御用の経費算出方法を知る上で貴重な史料となっています。

勝重の代表作は「群鶴図」だけではありません。「職人尽図屏風」（鎌倉国宝館所蔵）、「歌仙図屏風」（福井県立美術館所蔵）、「仁王図」、そして東京国立博物館が所蔵する「柿本人麿図」など、多様な作品を残しています。「柿本人麿図」は、勝重の画風が父である又兵衛と非常に近似していることを示しており、しっかりと家法を受け継いでいることが見て取れます。勝重は、彩色人物画を得意とし、浮世絵風や狩野派風など、様々な様式を取り入れた肉筆画を数多く制作しました。特に、風俗画においては父よりも多くの作品を残しており、独自の表現を追求したことがうかがえます。「寛文美人図」などもその代表例と言えるでしょう。

勝重は71歳で生涯を終え、福井市松本の興宗寺に葬られました。法名は釋道栄信士です。勝重の子である以重（陽雲）もまた、父と同じく福井藩に仕え、絵事御用を務めていましたが、貞享3年（1686年）の福井藩領地半減に伴い、以重を含む多くの絵師が解雇され、岩佐派は衰退の一途を辿ることとなりました。ただし、福井藩士としての存続は認められました。興味深いことに、『岩佐家譜』には、長谷川等伯の弟子である長谷川等哲が勝重の弟であるという記述も見られます。

岩佐勝重は、父である又兵衛の画風を受け継ぎながら、独自の表現を開拓し、福井藩の文化発展に大きく貢献した重要な絵師でした。その作品群は、江戸時代の絵画史における貴重な遺産であり、後世へと受け継がれるべきものです。彼の生涯と作品は、福井藩の歴史、そして日本の絵画史を理解する上で、欠かすことのできない重要な要素となっています。

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