御用絵師

御用絵師とは

御用絵師（ごようえし）とは、江戸時代に江戸幕府や諸大名に仕えた絵師のことです。ただし、中世や明治以後においても、同様の待遇を受けた絵師に対して用いられることがあります。

御用絵師の成立

御用絵師の先駆けとしては、室町時代に足利将軍家に仕えていた如拙、周文、小栗宗湛、狩野正信などが挙げられます。織田信長に仕えた狩野永徳（正信の曾孫）は、統一政権の庇護を受けて狩野派繁栄の基礎を築きました。

御用絵師の制度が整備されたのは、江戸時代に入ってからです。狩野永徳の孫である狩野探幽が徳川家康に謁見し、屋敷と扶持、知行地を与えられ、江戸幕府の絵師を務めたのが始まりとされています。探幽の一族は、後に江戸に本拠を定め、4つに分立して奥絵師に任ぜられました。これが狩野四家（中橋、鍛冶橋、木挽町、浜町）です。また、大和絵系の住吉派や、その門人である板谷家も奥絵師に任じられました。

奥絵師と表絵師

奥絵師は、御目見え以上の旗本と同等の待遇を受け、帯刀も許されました。正式な儀式で将軍に直接拝謁するため、板谷家を除く奥絵師には、医師の職格である御医師並、坊主の職格である同朋頭格や同朋格などが与えられました。それぞれの職格に応じた席次や格式が認められていました。

奥絵師は、月に12回江戸城に出仕し、必要に応じて幕府の御用に従って絵画を制作しました。この4家を補佐したのが表絵師です。表絵師には出仕義務はありませんでしたが、御目見え以下の御家人と同等の待遇を受けました。奥絵師と表絵師を合わせて「絵師」と称し、特に幕府の御用を務めた絵師を「御用絵師」と呼びました。

大名家の御用絵師

江戸幕府だけでなく、諸大名も同様に絵師を設置し、藩の御用を務めさせていました。これらの絵師も「御用絵師」と呼ばれていました。大名家の御用絵師の出自は、狩野派の出身者が多かったものの、西国では雲谷派や長谷川派の画系も見られました。

御用絵師の数は、時期や藩主の好みによって増減がありました。藩主が絵画好きの場合は増員される傾向がありましたが、興味がない藩主の場合は、財政難などの理由から減らされることもありました。

明治以降の御用絵師

明治維新後、奥絵師は士族として扱われた以外は平民となりました。しかし、明治以降も有力な政財界人の支援を受けて活動を行う画家を「御用絵師」と呼ぶことがあります。

まとめ

御用絵師は、江戸時代の文化を支えた重要な存在でした。彼らの作品は、当時の社会や文化を今に伝える貴重な資料となっています。また、御用絵師の制度は、日本の絵画史において重要な役割を果たしました。

参考文献

谷信一 「御用絵師」（『国史大辞典 6』、吉川弘文館、1985年）
山下善也 「御用絵師」（『日本歴史大事典 2』、小学館、2000年）
安村敏信 『もっと知りたい狩野派 探幽と江戸狩野派』 東京美術、2006年
山本ゆかり 「御用絵師」（『浮世絵大事典』 、東京堂出版、2008年）

もう一度検索