影向寺

影向寺について

影向寺（ようごうじ）は神奈川県川崎市宮前区にある天台宗の寺院で、その本尊には薬師如来が祀られています。本寺は「稲毛薬師」とも呼ばれ、その名称は神仏が姿を現すことを意味する「影向」に由来します。中原街道から北へ約300メートルの位置にあり、かつての建物や遺物はほとんど残っていないものの、関東地方では特に歴史的価値のある古い寺院とされています。

創建の歴史

影向寺の創建年代に関しては、資料が乏しいため詳細は不明ですが、一般的には天平12年（740年）に聖武天皇の勅願により、行基によって建立されたと伝えられています。しかし、最近の調査によってその創建は7世紀の後半に遡ることが確認されました。創設当初の影向寺は、当時の武蔵国橘樹郡内の有力豪族が管理する小規模な仏堂であった可能性が高いと考えられています。

その後、地域の行政役所である郡家が設置されると、影向寺は郡寺としても機能するようになったとみられています。この影響により、奈良時代には金堂が整備された記録があります。また、影向石と呼ばれる巨石の痕跡からは、現在は現存しない三重塔の建設も推測されています。

本尊の木造薬師如来とその脇に位置する侍像の一部は、11世紀後半に造立されたとされていますが、創建当初の本尊については不明です。

中世から現代までの変遷

影向寺は平安時代には天台宗の寺院として知られるようになり、中世には近隣の深大寺との関係を深めていくことになります。しかし、宗教的な庇護者を失った影向寺も、深大寺との関係を基に再び伽藍を復興しようと努めました。15世紀頃には旧金堂を廃し、密教本堂様式のより小規模な本堂を新たに建立しました。

また影向寺は元々「栄興寺」と呼ばれ、その後「養光寺」を経て、万治年間に現在の「影向寺」へと改称されました。1694年には劣化した本堂を再建し、この本堂は現在も現存しており、県の重要文化財に指定されています。

江戸時代には、影向石の独特な形状により、眼を洗うための水がたまるスポットがあり、その水で視力を回復できるという言い伝えが人々の間で広まりました。この影向寺は『江戸名所図会』に紹介されるなど、多くの人々に知られることとなりました。

1989年には本堂の半解体修理工事が行われ、それに伴う発掘調査において、新たな歴史的知見が得られました。

文化財と交通アクセス

影向寺には国指定の重要文化財があり、木造の薬師如来両脇侍像の3体が平安時代のもので重要視されています。これらの文化財は、旧法の国宝保存法においても国宝に指定されていました。また、境内にある薬師堂も江戸時代の建物として県の重要文化財に指定されています。

交通アクセスは、武蔵小杉駅や武蔵新城駅からバスが運行されており、最寄りの「影向寺」バス停からは徒歩約10分で到着します。野川側からは、来た道を少し戻り、登り坂を上るルートも利用可能です。仏教や歴史に興味のある方にとって、影向寺は訪れる価値のある場所です。

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