急性放射線症候群

急性放射線症候群（ARS）について

急性放射線症候群（Acute Radiation Syndrome, ARS）は、大量の放射線に被曝した後に比較的短期間で現れる一連の健康障害です。これは、放射線が体内の細胞、特にDNAに損傷を与えることによって引き起こされます。ここでは、ARSの病態、症状、予後、そして治療について詳しく解説します。

発症のメカニズム

ARSは、放射線が細胞のDNAを直接的または間接的に傷つけることで発生します。DNAへの損傷が修復不可能である場合、細胞はアポトーシス（プログラムされた細胞死）を起こすか、損傷した遺伝情報を持ったまま生き残ります。大量の細胞が死ぬと、組織や臓器は急性機能不全に陥り、ARSの症状が現れます。また、生き残った細胞が損傷したDNAを持つ場合、正常な細胞を生成できなくなり、機能回復が阻害されます。

ARSの主な症状

ARSの症状は、被曝線量に応じて異なり、いくつかの段階を経て進行します。

1. 放射線宿酔（前駆期）

被曝後48時間以内に現れる初期症状で、吐き気、嘔吐、全身倦怠感など、二日酔いに似た症状が見られます。通常、1Gy以上の被曝で自覚症状が現れます。

2. 臓器特有の臨床症状

より高線量の放射線を浴びると、特定の臓器に特有の症状が現れます。

急性骨髄症候群: 1Gy以上の被曝で発生し、造血幹細胞が損傷を受け、白血球や血小板が減少します。これにより、出血傾向や免疫力低下が生じ、重症の場合、数ヶ月以内に死亡する可能性があります。
消化管症候群: 5Gy以上の被曝で発生し、小腸の幹細胞が損傷を受け、下痢や細菌感染が起こります。重症の場合、2週間以内に死亡することがあります。
放射線神経障害: 30Gy以上という非常に高線量の被曝で発生し、中枢神経系に影響が出て、意識障害やショック症状が現れます。
放射線障害性心膜炎: ARSの一環として発症するものは比較的予後良好ですが、慢性収縮性心膜炎に進展すると予後不良となります。
放射線肺炎: 40Gy以上の局所被曝で発生し、肺線維症に進展することがあります。
皮膚障害: 3Gy以上の被曝で脱毛や紅斑が現れ、高線量になるほど皮膚の損傷が深刻化し、潰瘍や壊死が生じることがあります。

予後と治療

ARSの予後は、被曝線量に大きく依存します。無治療の場合、3Gyの被曝で50%が死亡するとされていますが、集中治療を行うことで、この線量を6〜8Gyまで引き上げることができます。

治療は、症状の緩和と臓器機能のサポートが中心となります。放射線宿酔には制吐薬が投与され、急性骨髄症候群には感染症対策や造血幹細胞移植、顆粒球コロニー刺激因子などが用いられます。消化管障害に対しては対症療法が中心であり、皮膚障害には皮膚移植が検討されます。

まとめ

急性放射線症候群は、放射線被曝によって引き起こされる深刻な状態であり、被曝線量に応じて様々な症状が現れます。早期の診断と適切な治療が、患者の生存率と予後を大きく左右します。放射線災害が発生した際には、迅速な対応と専門的な医療支援が不可欠です。

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