授記

授記：仏となる保証と仏教の未来

仏教において「授記（じゅき）」とは、仏が修行者に対し、将来必ず仏となることを予言し、保証することです。サンスクリット語のvyākaraṇa（和迦羅那、婆迦羅那などとも音写）を由来とし、仏の側から見た行為を「授記」、修行者側から見た行為を「受記」と言います。これは単なる予言ではなく、仏の絶対的な保証を意味しており、修行者にとって大きな励ましと指針となります。

釈迦と燃燈仏、そして過去の仏たち

釈迦自身も、過去世において燃燈仏から、今世において成仏することを授記されたと伝えられています。このことは、仏の位は一人の努力のみならず、過去の仏との繋がりによって支えられていることを示唆しています。スリランカの仏殿では、過去二十四仏とその授記を受ける人々の姿が描かれており、この伝統がいかに深く根付いているかを示しています。

大乗仏教における授記の意義

大乗仏教では、「授記作仏」という考え方が重要です。これは、仏の授記を受けた者が、必ず仏となるという考えに基づいています。『法華経』では、徳蔵菩薩が浄身如来となることを授記されたことが記され、『無量寿経』では法蔵菩薩が阿弥陀仏となることを授記されています。これらの経典は、授記が成仏への重要なステップであることを示しています。さらに、声聞や、提婆達多のような人物、さらには女性に対しても授記が与えられたことが説かれており、授記の対象は広範囲に渡ることがわかります。

受記の必要性と仏国土

大乗仏教では、見仏（仏を見ること）と受記が、成仏に必要な条件とされています。釈迦の入滅後、直接仏から指導を受けることができなくなったことから、仏国土へ往生し、仏から授記を受ける必要性が強調されるようになりました。これは、仏の教えを正しく理解し、実践するためには、仏の直接的な加護と指導が必要であるという考えに基づいています。発願（仏になることを誓う）を行い、それが仏に認められ、その後修行を積み、最終的に仏から授記を受けることで、初めて成仏できるという考え方です。

「法滅」と授記：仏教の未来への展望

「授記」は、「法滅」（仏の正法が滅びること）という概念と深く関連しています。仏滅後500年後に正法が滅びるとする説は、初期の阿含経には見られず、大乗経典に多く見られる特徴です。この「法滅」後の仏教の存続を支えるのが、既に釈迦によって授記を受けていた菩薩の転生であるという解釈がなされています。この解釈においては、500年前に授記を与える仏、すなわち燃燈仏の存在が不可欠となります。これは、仏教が歴史的変遷を経ても、その本質が失われることなく受け継がれていくことを示唆しています。渡辺章悟氏は『大乗仏教の誕生』において、この「法滅」と「授記」の関連性を詳細に分析しています。

このように、授記は単なる予言ではなく、仏教における成仏の過程、そして仏教の未来を担保する重要な概念です。過去の仏との繋がり、仏国土への往生、そして「法滅」後の仏教の存続という様々な側面から、その意義を理解することが重要です。

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