新己斐橋

新己斐橋：平和大通りと広電本線を繋ぐ歴史の架け橋

広島県広島市を流れる太田川放水路に架かる新己斐橋は、道路と広島電鉄本線の路面電車が行き交う併用橋です。その歴史は、戦前に存在した己斐鉄橋と福島鉄橋にまで遡ります。これらの橋は、広島電鉄本線の開通と同時に建設され、多くの市民の生活を支えてきました。

新己斐橋は、平和大通り（広島市道比治山庚午線）と広電本線の軌道が行き交う重要な交通の要衝です。上流側には己斐橋、下流側には旭橋と新旭橋が架かり、西側にはJR西広島駅と広電西広島駅、東側には緑大橋があり、広島平和記念公園へと続く道路網の一部を形成しています。歩道は比較的狭く設計されていますが、所々に張り出したデッキが設けられ、歩行者の安全と快適性を考慮した設計となっています。西広島駅の手前に位置するため、特に通勤ラッシュ時には、人、車、路面電車がひっきりなしに行き交い、活気に満ちた光景が広がります。また、毎年1月に開催される天皇盃全国都道府県対抗男子駅伝競走大会のコースにも含まれており、市民の生活のみならず、地域のイベントにも深く関わっている橋と言えます。

戦前からの歴史と原爆投下

1912年（大正元年）12月8日、広島電鉄本線の相生橋から己斐（現在の広電西広島駅付近）間が開通した際に、己斐鉄橋と福島鉄橋が建設されました。己斐鉄橋は現在の山手川と福島川が形成する中州から西側の己斐地区へ、福島鉄橋は中州から東側の天満町地区へと架かっていました。当時の国道2号線は、これらの橋の上流側に位置する己斐橋と福島橋が担っており、人や車はそちらを利用していました。

1932年（昭和7年）には、太田川放水路工事に伴い、河川幅の拡幅が行われ、己斐鉄橋と福島鉄橋の架け替えが決定されました。しかし、平和大通りはまだ計画段階であり、実際の工事は戦後までずれ込むことになります。

1945年（昭和20年）8月6日、広島市への原子爆弾投下。爆心地から己斐鉄橋は2.10km、福島鉄橋は1.50kmの距離にありました。激しい爆風により、己斐鉄橋は軽微な損傷を受け、福島鉄橋は大きく傾斜しましたが、幸いにも両橋とも落橋を免れました。被爆者たちは、これらの橋を伝って避難したと伝えられています。しかし、被爆によって甚大な被害も発生しており、脱線した路面電車の車両には、逃げ遅れた乗客が亡くなっているという悲しい事実も残っています。

被爆後、広電社員や軍関係者らの努力により、市内軌道と己斐鉄橋、福島鉄橋は応急修理され、同年8月9日には己斐から西天満町電停まで、単線運転が再開されました。この一番電車は、被爆者たちにとって希望の象徴となり、そのエピソードは、広電の社史や様々な被爆体験記に記されています。運転手たちの証言からは、当時の人々の絶望と希望が伝わってきます。

戦後の復興と新己斐橋の建設

戦後、広島復興都市計画において、平和大通りの整備が決定されました。これに伴い、車道と軌道が併用できる新己斐橋の建設が計画され、太田川放水路の改修工事も再開されました。福島鉄橋付近は埋め立てられ、新己斐橋は1965年（昭和40年）4月に完成しました。新己斐橋の開通後、旧己斐鉄橋は撤去されました。

新己斐橋周辺の整備

新己斐橋の右岸（己斐側）には、親水性護岸を用いた河川敷が整備されています。新己斐橋付近には階段護岸と多目的広場が造られ、橋脚には、こだまこずえ氏による壁画「ヒロシマの命太田川」が描かれています。上流側には「じゃぶじゃぶ池」や人工干潟も整備されており、汽水域に特有の生物が生息しています。

新己斐橋は、単なる橋梁としてだけでなく、広島の歴史と復興、そして未来への希望を象徴する存在と言えるでしょう。その歴史と周辺環境を理解することで、より深く広島の街を味わうことができるはずです。

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