曼陀羅寺

愛知県江南市前飛保町に位置する曼陀羅寺は、日輪山遍照光院曼陀羅寺と称される西山浄土宗の仏教寺院です。通称「飛保の曼陀羅寺」として親しまれ、本尊には阿弥陀三尊を祀っています。この寺院は、特に春の藤の名所として知られ、毎年多くの人々が美しい藤を見に訪れます。

寺院の起源は古く、元徳元年（1329年）に後醍醐天皇の勅願によって創建されたと伝わっています。天皇の叔父にあたる天真乗運を開山として迎え、およそ5年の歳月をかけて建立されました。その後も歴代天皇の信仰を受け、後奈良天皇からも勅願寺に指定される綸旨が下されました。創建当初は円福寺という名称でしたが、寛正3年（1462年）に現在の寺号である曼陀羅寺に改められました。戦国時代から江戸時代にかけても時の権力者から保護を受け、豊臣秀吉からは204石、江戸時代には231石の寺領を保証する朱印状や黒印状が与えられ、その寺勢は明治維新まで続きました。現在でも、織田家や豊臣家、徳川家に関連する古文書をはじめ、数多くの貴重な寺宝が所蔵されており、これらは毎年春の藤まつりの時期に合わせて一般公開されています。

境内に現存する正堂（本堂）は、寛永9年（1632年）にこの地の出身で後に徳島藩の藩祖となった蜂須賀家政公によって再興されたものです。この正堂は、京都御所の紫宸殿を模して造られたと伝えられ、その歴史的・建築的価値から国の重要文化財に指定されています。また、寺域の一部は曼陀羅寺公園として整備されており、この公園が春の「藤まつり」のメイン会場となります。公園内には多種類の藤が植えられ、開花期には華やかな藤棚が見事な景観を生み出します。

曼陀羅寺の境内には、本誓院、世尊院、修造院、光明院、常照院、寛立院、慈光院、霊鷲院という8つの塔頭寺院が存在します。中でも本誓院は、蜂須賀家政公が幼少時代に勉学に励んだ場所として伝えられており、現在も家政公の位牌や、当時使用したとされる机が大切に保管されています。

曼陀羅寺には、国や愛知県、江南市が指定する多くの文化財があります。国指定の重要文化財としては、前述の正堂に加え、文禄元年（1592年）建立の書院があります。この書院は書院造りの建築で、関ヶ原の戦いに先立つ岐阜城攻めの際に、東軍の主要な武将たちがここで軍議を開いたという逸話が残されています。書院の裏庭には「弥陀桜」と呼ばれる彼岸桜があり、春には美しい花を咲かせます。その他、重要文化財には、絹本著色浄土五祖像（5幅）や、朝鮮半島で高麗時代に製作された銅鐘も含まれます。

愛知県指定の有形文化財には、曼陀羅寺伽藍の一部である地蔵堂や浄土変相当麻曼荼羅図があります。特に地蔵堂に安置されている本尊の地蔵菩薩像は、後醍醐天皇の母親が宮中で日々信仰していた念持仏を、寺の創建時に開山の天真乗運に下賜されたものと伝わる、非常に由緒深い像です。

さらに、江南市の指定文化財も豊富に所蔵されています。絵画として絹本著色三尊弥陀来迎図などが、建築物として曼陀羅堂などが、工芸品として香箱文殊などが、書状として織田信雄の禁制などが、彫刻として不動面などが指定されています。また、境内に生育する「むく」の木や「彼岸桜」は、天然記念物として保護されています。これらの文化財は、曼陀羅寺の長い歴史と信仰の深さを物語る貴重なものです。

年間を通じてさまざまな行事が行われますが、中でも最大の見どころは「藤まつり」です。毎年4月後半から5月6日まで開催され、藤の開花状況によって開始日は変動します。色鮮やかに咲き誇る藤は圧巻で、期間中は多くの来場者で賑わいます。かつては菊まつりも開催されていましたが、2006年からは会場をすいとぴあ江南に移して実施されています。

曼陀羅寺へのアクセスは、名鉄犬山線の江南駅から名鉄バスに乗車し、「曼陀羅寺」バス停で下車後、徒歩約2分です。名鉄一宮駅からのバス便も利用できます。古刹の佇まいと美しい自然、そして貴重な文化財が調和する曼陀羅寺は、静寂の中で祈りを捧げる場であると同時に、地域の人々に愛される憩いの場所となっています。

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