朝比奈泰能

朝比奈泰能（あさひな やすよし）

戦国時代に今川氏の有力な家臣として活躍した武将です。遠江国の要衝である掛川城を拠点とし、今川氏親、氏輝、そして義元という三代の当主に仕えました。その忠誠心と功績は、今川家において非常に重んじられました。

明応6年（1497年）、朝比奈泰煕の子として生まれ、やがて家督を継承します。しかし、父の死後、若年であったため、叔父にあたる朝比奈泰以の後見を受けながら成長しました。今川家との結びつきを深めるため、永正15年（1518年）には、当時の今川家当主であった氏親の母、寿桂尼の兄にあたる中御門宣秀の娘を正室に迎えることで、主筋との姻戚関係を築きました。

泰能は今川氏の宿老として、政治や外交の場でも重要な役割を担います。大永6年（1526年）に制定された今川氏の分国法である「今川仮名目録」においては、三浦氏満と並んで重臣筆頭格としてその名が記されており、今川家の内外における地位の高さを示しています。また、今川氏の外交文書などでは、高僧であり今川義元の軍師としても知られる太原雪斎と共に名を連ねることが多く、両者が今川氏政権において中核的な存在であったことがうかがえます。

居城とした遠江国掛川城は、駿河から西へ向かう今川氏にとって、まさに最前線となる重要な拠点でした。泰能はこの地から、今川義元が進める遠江や三河といった西方への勢力拡大戦略を支え続けました。その戦略の一環として、自身の分家筋にあたる朝比奈泰長や朝比奈元智といった兄弟に、浜名湖西岸の宇津山城を託し、西方への備えを強化するなど、地域全体の防御体制構築にも尽力しています。

軍事面でもその能力を発揮し、天文17年（1548年）に織田氏と戦った小豆坂の戦いでは、総大将を務めた太原雪斎を補佐する副将として戦場に立ちました。また、天文18年（1549年）、三河国の要衝である岡崎城主・松平広忠が不慮の死を遂げると、今川氏が岡崎城を支配下に置くための接収任務にあたるなど、軍事行動だけでなく、その後の地域支配に関わる重要な役割も果たしました。

泰能は弘治3年（1557年）8月30日に病のため亡くなったとされています。彼の死後、嫡男である朝比奈泰朝が跡を継ぎました。なお、永禄3年（1560年）に起こった桶狭間の戦いにおいて、今川軍の一部として尾張国の鷲津砦を攻撃した将の中に「朝比奈泰能」の名が見える史料も存在します。しかし、これは実際には嫡子の泰朝のことであり、親子を混同したものと考えられています。ただし、一説には、太原雪斎の死に続いて泰能という重臣を失ったことで、今川軍の動揺を恐れ、その死を3年間公に伏せていた可能性も指摘されています。

いずれにせよ、長年今川氏を支え、特に太原雪斎と共に義元を補佐した泰能の死は、今川氏にとって大きな痛手であったことは間違いありません。彼の死からわずか3年後に、主君である今川義元が桶狭間の戦いで織田信長に敗れ、討ち死にすることになります。

別伝

もう一つの伝承として、泰能は通称を弥太郎と称し、通説とされる弘治3年没ではなく、永禄11年（1568年）末の武田信玄による駿河侵攻まで存命であったという説も伝えられています。この説によれば、武田軍の急襲を受けた駿府城から主君今川氏真や城中の女性たちを脱出させるため、泰能は単身で武田軍に突入し、時間を稼いだ後、駿府の市中で自害したとされています。その墓とされるものが、静岡市の大正寺に残ると伝えられていますが、これは同族の他の人物に関する伝承と混同されている可能性も指摘されています。

系譜

父：朝比奈泰煕（?-1511）
母：不詳
正室：中御門宣秀娘
子：朝比奈泰朝（1538?-?）

参考文献・関連作品

泰能に関する記述は、『戦国軍師人名事典』（川口素生著、学習研究社）、『戦国人名事典』（阿部猛・西村圭子編、新人物往来社）などの歴史書籍に見られます。

小説では、岩井三四二の『難儀でござる』（光文社時代小説文庫）に登場します。また、テレビドラマでは、大河ドラマ「信長 KING OF ZIPANGU」（1992年）、「風林火山」（2007年）などの他、幾つかの戦国時代を舞台にした作品に配役されています。

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