末代

末代（まつだい）は、平安時代に活躍した僧であり、村山修験の祖として知られています。富士上人とも呼ばれ、その名は有鑑（ゆうかん）でした。駿河国（現在の静岡県）の出身で、富士山信仰と修験道に深く関わった人物です。

生涯と足跡

末代は、幼少の頃から伊豆山の走湯山で修行を始め、各地の霊山を巡り歩いたと伝えられています。また、実相寺の開祖である智印（阿弥陀上人）の弟子であったとも言われています。富士山が開山される以前は、伊豆山や箱根山を拠点として活動し、熱海の地獄のような景観を鎮めるために日金山に地蔵堂を建立したとされています。室町時代に成立した『地蔵菩薩霊験記』には、末代が富士山を信仰し、村山に寺を建立して即身仏となり、大棟梁権現として富士山の守護神になったと記されています。

『浅間大菩薩縁起』によると、1132年（長承元年）に同志の頼然とともに富士山登頂に成功し、過去に登頂した金時上人らの遺品を発見しました。その後も複数回登頂し、仏具や不動明王を刻んだ鏡を山頂に奉納しました。『本朝世紀』には、1149年（久安5年）に末代が富士山頂に大日寺を建立したとあり、富士山への数度の登頂を重ねた修行僧として知られています。さらに、白山信仰にも深く関わり、白山の宝殿に鰐口や錫杖を奉納し、朝廷にも大般若経の書写を勧めています。これらの活動により、末代の名は中央にも広く知られるようになりました。

ゆかりの地

末代が活動したゆかりの地は、現在もその足跡を伝えています。1399年（応永6年）の『寺領知行地注文』によると、村山の地は中世には走湯山領であり、伊豆と富士の修験が一体となって村山口登山道を管理していました。末代が富士登頂の際にベースキャンプとした場所には、滝本往生寺（中宮大日）が建立され、浅間大菩薩の示現を受けた岩屋不動という霊地も存在しています。また、1930年（昭和5年）には富士山頂から埋納経の残骸が発見され、その中に「末代聖人」と記された紙片が含まれていました。1996年（平成8年）には、熱海市で末代の遠忌供養のために造立された宝篋印塔が発見され、伊豆山でも末代が崇められていたことが判明しました。この塔は、2012年（平成24年）に熱海市の文化財に指定されています。

末代の功績

末代は、富士山信仰と修験道の発展に大きく貢献した人物です。その足跡は、文献や遺跡から確認できます。彼の活動は、富士山を神聖な山として捉え、信仰の対象として広める上で重要な役割を果たしました。また、修験道の隆盛にも寄与し、後の山岳信仰に大きな影響を与えました。

参考資料

平野栄次、『富士浅間信仰』、雄山閣
富士宮市教育委員会、『元富士大宮司館跡』
西岡芳文、「尊経閣文庫所蔵『古文状』について（上）」
西岡芳文、「新出『浅間大菩薩縁起』にみる初期富士修験の様相」
西岡芳文、「富士山をめぐる中世の信仰」
富士市立博物館、『富士山縁起の世界─赫夜姫・愛鷹・犬飼─』

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