東寺文書

東寺文書：千年を超える歴史を語る貴重な史料

東寺文書とは、京都市にある東寺（教王護国寺）に伝わる、古代から近世にかけて作成された文書の総称です。その数は、寺内外の保管場所を含めると約10万通にも及び、日本歴史研究において極めて重要な史料として位置付けられています。

多様な分類と膨大な情報量

東寺文書は、その伝来や保管場所によって様々なグループに分類されます。大きく分けると、東寺自体に伝わる寺家文書と、東寺の末寺である子院に伝わる子院文書があります。

寺家文書はさらに、「東寺文書」（狭義）、「東寺百合文書」、「教王護国寺文書」、「霊宝蔵中世文書」、「霊宝蔵近世文書」などに細分化されます。これらの文書は、寺院の宗教活動、所領経営、経済活動に関する記録が中心です。仏教史のみならず、政治史、社会史、経済史の研究にも欠かせない、貴重な情報源となっています。特に中世社会・経済史においては、東寺文書を参照しない研究はほとんどないと言っても過言ではないほどです。

東寺は長保2年（1000年）の火災で一部の文書を失いましたが、その後は大きな災害や廃仏毀釈の影響を比較的受けずに済んだため、平安時代から江戸時代までの文書が数多く現存しています。中には奈良時代の文書も含まれています。

近世初期までは、寺家文書は西院御影堂経蔵と宝蔵の2ヶ所に保管されていました。宝蔵は寺の実務担当僧が管理し、西院御影堂経蔵には特に重要な文書が保管され、厳重な管理がなされていました。寛文年間（1661～1673）の御影堂改修に伴い、これらの文書は霊宝蔵に移されました。

東寺文書の代表例：東寺百合文書

東寺百合文書は、東寺の宝蔵に伝来した文書群で、その多くは現在、京都府立京都学・歴彩館に保管されています。24,067通にも及ぶ同文書は1997年に国宝に指定され、「世界の記憶」にも登録されています。

江戸時代以前は、東寺文書は革袋や様々な箱に保管されていました。加賀藩主・前田綱紀による書写事業の際に作られた桐箱100合（実際には93合＋1合の後補）に収納されていたことから「東寺百合文書」と呼ばれるようになりました。

明治時代には帝国大学臨時編年史編纂掛による調査が行われましたが、土地台帳や絵図などは十分に調査されず放置されていました。本格的な目録作成と整理は京都府立総合資料館に移管後に行われ、1980年には『東寺百合文書目録』が刊行されました。現在では、ウェブ上で画像の公開もされています。

東寺百合文書には、東寺が所有した荘園の経営に関する文書や、寺内会議の議事録などが多数含まれ、古代・中世の大寺院の運営実態を多角的に分析できる貴重な資料となっています。

その他の重要な文書群

「教王護国寺文書」は、元は東寺百合文書の一部と推定され、京都大学に所蔵されています。明治時代の調査では見過ごされていましたが、昭和12年に再発見され、現在では国の重要文化財に指定されています。

さらに、近世に東寺から流出した文書群も「東寺文書」として知られ、滋賀県立琵琶湖博物館に所蔵されています。これらも重要文化財に指定されています。

東寺文書の意義

東寺文書は、単なる寺院の記録にとどまらず、古代から近世にかけての日本社会の政治、経済、宗教、文化を理解する上で極めて重要な史料です。その膨大な量と多様な内容は、今後も歴史研究の進展に大きく貢献すると期待されています。今後も継続的な調査、研究、そして保存活動が不可欠です。

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