松井茂

松井茂（まついしげる）は、1866年 11月4日に広島県広島市で生まれ、1945年 9月9日に東京都西多摩郡で亡くなった、日本の内務官僚、政治家、そして法学者です。東京士族の出身で、法学博士の学位を持ちます。

生い立ちと学歴

松井茂は、広島県広島市猿楽町（現在の中区大手町）で、有隣の長男として生まれました。広島尋常中学校（現在の広島国泰寺高等学校）では、柴野登一や玉井喜作らと同期でした。1880年に父親の転勤で丸亀に移り、翌年上京。獨逸学協会学校（現在の獨協中学校・高等学校）、東京大学予備門（第一高等学校）を経て、1893年に東京帝国大学法科大学独法科を卒業。その後、同大学の研究科に進み、警察法を研究しました。

内務官僚としての活躍

1893年、日清戦争直前に内務省に入省。警視庁四谷警察署長を皮切りに、香川県警察部長、警保局警務課長、警視庁第二部長兼任内務書記官、兼任消防署長（後の消防総監）などを歴任しました。1905年には警視庁第一部長として日比谷焼打事件の鎮圧を指揮しました。

1906年には著書『警察の本領-一名公衆と警察』を発表し、民衆を警察の側に近づける努力の必要性を訴えました。この間、行政執行法の前身となる警察基礎法、警察監視法案、銃砲火薬法案の立案に携わったほか、警察監獄学校、警察協会、大日本消防協会（現在の日本消防協会）の設立や、国技館の建設にも関与しました。また、娼妓取締規則問題にも尽力しました。

1907年には韓国内部警務局長として、植民地警察機構の整備に尽力。丸山重俊らと協力し、韓国警察機構の立案を担当しました。1910年には、韓国政府から勲一等に叙せられ、八卦章を授与されました。同年、穂積八束の推薦により、内務官僚としては初めて法学博士の学位を取得しました。

県知事、警察講習所長として

1911年には静岡県知事、1913年には愛知県知事を歴任。1918年には警察講習所創設を企図し、翌1919年に初代警察講習所長に就任しました。1918年に起きた米騒動の鎮圧において、警察の弾圧・検挙活動が民衆の反感を買ったことを受け、松井は国民の中に警察と協力する自衛思想を育むこと、国民警察の思想を浸透させることの必要性を説き、各地で講演を行いました。警察幹部育成には情熱を燃やし、それまで体系的でなかった警察幹部養成制度の確立に尽力しました。関東大震災の影響で組織は縮小され1924年には同講習所顧問となりましたが、松井が理想とした国家による警察教育制度は、戦後の警察制度改革で実現しました。

晩年と功績

1934年7月3日、貴族院勅選議員に任じられ、死去するまでその職を務めました。その他、大礼使事務官、警察協会副会長、消防協会副会長、警察共済組合審査会議長、中央社会事業協会理事、社団法人赤十字社理事、皇民会長、国民精神総動員中央連盟理事、大日本警防協会副会長、内務省防空局参与など、多くの要職を歴任しました。警察と消防に関する多くの著書・論文を執筆し、皇民警察を提唱しました。1920年には勲一等瑞宝章を授与されています。

戦前の代表的な警察官僚として、警察法の立法に尽力し、1900年の警視庁第二部長時代には道路取締規程の作成によって道路交通法の左側通行を導入しました。1901年から翌年にかけて欧米各国を巡り警察と消防を視察し、救助はしご車の輸入や救急自動車の導入に貢献するなど、日本の警察と消防行政の基礎を築いた人物として知られています。

1945年 9月9日、疎開先の東京都西多摩郡霞村で死去。享年80歳。築地本願寺で警察消防葬が行われました。墓所は多磨霊園にあります。

栄典

1925年（大正14年）1月31日 - 正三位

勲章

1909年（明治42年）4月18日 - 皇太子渡韓記念章
1915年（大正4年）11月10日 - 大礼記念章
1916年（大正5年）
1月19日 - 勲二等瑞宝章
4月1日 - 旭日重光章
1920年（大正9年）11月1日 - 勲一等瑞宝章
1940年（昭和15年）8月15日 - 紀元二千六百年祝典記念章

外国勲章

1908年（明治41年）7月2日
大韓帝国：第二等太極章
大韓帝国：韓国皇帝陛下即位礼式記念章
1910年（明治43年）5月16日 - 大韓帝国：韓国皇帝陛下南西巡幸記念章

主な著作

『日本警察要論』（警察協会、1902年）
『欧米警察視察談』（警察協会、1902年）
『警察の本領』（博文館、1906年）
『各国警察制度』（警察協会、1906年）
『各国警察制度沿革史』（警眼社、1906年）
『自治と警察』（警眼社、1913年）
『独逸消防の近況と所感』（大学館、1919年）
『警察の根本問題』（警察講習所学友会、1917年）
『国民消防』（松華堂、1926年）
『警察読本』（日本評論社、1933）
* 『消防精神』（日本評論社、1935年）

松井茂は、日本の警察と消防行政の発展に大きく貢献した人物として、その功績は高く評価されています。

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