根府川駅

根府川駅：関東大震災の爪痕と復興の物語

神奈川県小田原市根府川にあるJR東日本東海道本線の根府川駅は、関東の駅百選にも選ばれた歴史深い駅です。しかし、その歴史は、1923年に関東大震災で発生した大惨事と深く結びついています。

1896年から1922年までは、熱海鉄道の根府川駅も存在していましたが、現在のJR根府川駅とは場所が異なっていました。運命の日は1923年9月1日、関東大震災が起きました。大地震により発生した大規模な地滑り、土石流が駅を襲い、真鶴行きの列車が海に転落する悲惨な事故が発生しました。8両編成の列車には約150名の乗客が乗っており、約130名もの尊い命が失われました。駅周辺の住民も多数死傷したこの事故は、根府川駅列車転落事故として現在も記憶されています。事故後、駅構内には車止め一つだけが残るという、壊滅的な被害を受けました。

翌年には駅は再建されましたが、海中には当時のホームが今も残っており、ダイビングスポットとして知られています。海底に沈んだ機関車と客車は1934年に引き揚げられましたが、一部は鉄道省に寄付され、一部は鉄くずとして処分されたと伝えられています。この事故で貴重な遺品である960形蒸気機関車のナンバープレート「977」は、交通博物館を経て、現在の鉄道博物館で展示されています。

この事故で娘を失った岡野喜太郎氏（スルガ銀行創業者）は、真鶴駅寄りの海岸に慰霊碑を建立しました。その後、1973年には駅職員によって『関東大震災殉難碑』も建立され、多くの人々の記憶に刻まれる場所となっています。

根府川駅は、1922年12月21日に国有鉄道熱海線国府津駅～真鶴駅間の開通と同時に開業しました。当初は旅客・貨物両方の取扱を行っていましたが、1970年に貨物取扱を廃止、1972年には荷物の取扱も廃止されました。1987年の国鉄分割民営化により、JR東日本に継承されました。1999年には関東の駅百選に選定されています。

駅は2面3線の地上駅で、かつて1番線は貨物列車専用でしたが、現在は撤去され、2番線から4番線が使用されています。3番線は上下線共用の待避線です。ホームは海抜45mの崖の下にあり、駅舎は崖の上という、独特の構造をしています。駅舎内には、乗車駅証明書発行機、簡易Suica改札機、自動券売機（早朝・深夜は稼働しない）、運行情報モニターなどが設置されています。JR東日本管内の東海道本線では唯一の無人駅であり、無人駅としては非常に珍しい規模です。

2008年度の1日平均乗車人員は639人でした。東海道本線JR東日本管轄区間、かつ15両編成の列車が停車する駅の中では最も少ない利用者数です。無人駅のため、2009年度以降の乗車人員は非公表となっています。

駅周辺は、かつてはみかん栽培が盛んでしたが、需要低迷や後継者不足により、生産量は減少しています。しかし、小田原湯河原広域農道の建設が進められており、農産物の生産・輸送、防災、観光農業などの面で期待されています。

駅周辺には、小田原市役所片浦支所、小田原市役所江之浦保育園、神奈川県農業技術センター足柄地区事務所根府川分室、小田原市立片浦小学校、JAかながわ片浦支店、根府川郵便局、根府川みどりの広場、寺山神社、釈迦堂などがあります。交通面では、箱根登山バスが根府川駅前に停車し、小田原駅方面への路線が運行されています。

隣の駅は、早川駅と真鶴駅です。かつては快速「アクティー」が通過していましたが、1998年から一部列車が停車するようになり、2004年には全列車停車となりました。また、湘南新宿ラインの特別快速が延長運転される場合、当駅を通過します。

根府川駅は、関東大震災という暗い歴史を背負いつつ、現在も地域住民の生活の足として、そして歴史を語り継ぐ場所として存在し続けています。その歴史と風景は、多くの人の心に深く刻まれていることでしょう。

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