梨園

梨園（りえん）について

梨園とは、中国の唐（618年-907年）の時代に存在した音楽家の養成所を指します。この施設では主に、宮廷音楽家が育成されていましたが、日本ではその意味が転じて、歌舞伎俳優の社会を示す言葉として使われるようになりました。この場合、梨園は一般社会からかけ離れた特異な封建的側面を象徴的に表現しています。

由来

梨園の語源は、中国の唐の時代、特に玄宗皇帝の時代に遡ります。712年、唐の皇帝であった玄宗は、長安の西内苑に「梨園」と呼ばれる特別な庭園を設け、そこで芸人たちを集め、音楽や演技の教習を行わせました。この庭園には、芸術家が育成されるための音楽教習府が設置されており、この施設は「梨園」と名付けられました。

梨園に集められたのは、太常寺太楽署に属する楽人たちや、坐部伎と呼ばれる楽人の子弟、教坊の妓女、さらには一部の宮女などさまざまな人々でした。玄宗皇帝自身が好む法曲を教えるために、弟子たちは「皇帝梨園弟子」と呼ばれることもあり、この呼称はその後も続くことになります。

衰退と再興

しかし、安史の乱（755年-763年）の影響によって、宮廷の音楽文化は壊滅的な打撃を受け、梨園も一時的に衰退してしまいました。ただし、その後、再興の動きが見られ、838年には梨園の名称が「仙韶院」と改められました。この時、法曲を仙韶曲と改名するなど、音楽や演技の技術の復興が図られました。

唐末の動乱によって、再び梨園は消えてしまいますが、その影響は明代以後の中央劇壇に引き継がれ、この名称が引き続き使われることとなります।

日本への影響

日本においては、梨園という言葉は歌舞伎俳優の世界を指す専門用語として使用されるようになりました。特に江戸時代に入ると、歌舞伎の発展とともに、梨園は役者たちの社会や文化を象徴する重要な用語となり、封建的なシステムの中で奮闘する歌舞伎界の特殊性を際立たせるものでした。

歌舞伎における梨園は、ただの役者たちの集まりではなく、彼らの生活や職業が持つ特異性、そしてそれに伴う社会的な位置づけを指し示すものとなっています。多くの人々からは歌舞伎俳優が一種の特殊な職業集団として見なされ、文化的・社会的な独自性を持つ場所とされています。

梨園の歴史を通じて明らかになるのは、文化芸術が時代や社会にどのように影響を与え、またその逆にどのように影響されるかという、相互の関係性の深さかもしれません。

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